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アクシデント再び 1

 翌日、五藤くんに言われた通り、僕は二人分の弁当を持参した。  手渡しは不可能だから、早い時間帯、廊下に設置してある彼のロッカーに入れる約束だ。  弁当箱は、捨てられる素材のものにしたから、渡すだけでいい。  そして僕は、弁当持参で食堂へ行く。佐尾先生と一緒だったり、一人だったりする。ごくたまに、生徒と一緒にテーブルにつく佐尾先生に誘ってもらえるときもある。  もちろん、渋い顔をする生徒もいるけれど、確実に以前より、僕は受け入れられているようだった。  それに、五藤くんが僕の手作り弁当を食べるのを見られるし。この前なんか、彼が食べているのを近くで見たくて、勇気を出してさりげなくテーブルを横切ったのだ。  彼は、「なに見てんだよ」って顔を僕に向けたから、無表情を保つのに苦労してしまった。 「あー、つっくんのお弁当美味しそう! ね、Aランチと交換して?」 「やだ」 「ケチ」  この日は佐尾先生と二人だったから、とても高校教師とは思えない、低次元な会話だ。大体いつもこんな感じだが。 「そうそう、期末試験の問題、進んでる?」 「三分の一は仕上がったけど……今回は時間かかりそうだな」 「あたしも! ほんと、毎回苦労するわよね、いやんなっちゃう」  こんな、教師らしい会話もごくたまにしたりする。佐尾先生とのこんなくだけた会話も、もちろん楽しいけれど、でも、やっぱり僕は、彼のことを考えてしまうのだ。 「あのー、私達もご一緒していいですか」  トレイを持った女子生徒が二人、僕らのテーブル横に立っていた。  え? と僕が思わず見上げると、彼女達は僕と佐尾先生を交互に見た。テーブルは四人掛け。  えっと、僕は……邪魔だよね。  どうしたらいいかわからなくて、佐尾先生を見ると、彼女はにっこり笑って僕を見た。 「もちろん! いいわよね、松澤先生」  僕が戸惑っている間に、女子生徒二人はトレイを置き、それぞれ座った。僕の隣に座った子は、にこにこしている。  えー……僕の隣でいいの? 怖くないの?  でも、僕も、釣られて笑顔になってしまった。それを見たもう一人の女子生徒は少し驚いたようだったけど、佐尾先生が笑っているおかげもあり、四人で和やかに食事ができた。  後で気づいたことだけど、僕の隣に座った女子は数日前、授業後質問をしてきた生徒だった。あの時は、生徒の質問なんてすごく久しぶりだったから嬉しくて、いつもの「職員室バージョンつっくん」(?)に近い感じで、女子生徒と話してしまった気がする。  きっとその時に、僕が怖くなかったのかも。  ふと視線を感じて顔を上げると、席を立つ五藤くんと目が合った。かすかに口もとが笑っている。驚いた、彼の予想はあたったのだ。  授業後に質問に来る生徒が増えてきたのは事実だ。  でもそれは、人の多い廊下などだったし、決して僕個人と距離を縮めようとするものではなかった。  質問以外で僕に接近してきた生徒の勇気に、僕は驚いていた。

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