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アクシデント再び 3

 フレンドリーなマモルくんとは対象的に、カジくんはしかめっ面だ。    そりゃそうだよな、って思う。五藤くんと険悪な関係だった教師の僕を、簡単には受け入れられないのはしかたがない。それだけ、カジくんは友達思いってことなんだろう。  僕の立ち位置を、如実に表しているな、とも思った。    変化した僕をすんなり受け入れる生徒もいれば、やっぱり気に入らないと思う生徒だってもちろんいる。それは仕方がないことだ。  職員室に戻ると、ラインが届いていた。五藤くんだ。  <目の下にクマがあったけど、大丈夫? つっくん先生> 「ぷっ! ……」  まさか五藤くんまで、そう呼ぶつもりなの?   あまりにも似合わないから、口元がにやけちゃうじゃん! 「つっくんたら、なに携帯見てニヤニヤしてんの」  向かいの席から佐尾先生が言った。 「な、なんでもないよ~」  僕は思い切り笑顔を作って誤魔化した。 「え、ちょっと、なんかあやしい!」 「~♪」  僕は口笛を吹き、テヘペロ顔でスルーした。    しばらく佐尾先生は僕をガン見して怪しんでいた。(目が血走ってて怖い)(きっと僕と同じで寝不足なんだろう)「後で尋問するからね」とか物騒な事を言われたけど、今はテスト作成でお互いに忙しい身だから、子供同士みたいな攻防戦は、あっけなく終了した。     ♢  三日間の試験が、無事終了した。ぎりぎりだったけど、なんとかテスト問題は納得のいくものを完成させることができた。  ――ほんとによかった……。間に合わないかと思った……  今回、生徒たちは苦戦したかもしれない。平均点が、七十いくか厳しいところかもしれない。  明日から二日間、生徒たちは試験休み。終わってほっとするけど、僕ら教師は、採点などで登校するから、気が抜けない。  連日寝不足で、僕はほとんど屍《しかばね》状態。佐尾先生も僕と同じような表情だった。(でも女性はメイクでクマとか隠せるから羨ましいなあ)  試験は午前で終了だから、この三日間は弁当を作らなかった。  気力がない上に、特に食欲が落ちていたから、自分の分を作っても無駄にしてしまったかもしれない。  職員室のテラスで、惣菜パン一個に牛乳という簡単な昼食を摂った。  口をモシャモシャさせながら壁かけ時計を見ると、針は十二時半を差していた。  本当はパンを二個買うつもりだったけど、満腹になったら睡魔に襲われそうだから一個にした。でも、それでも既に眠い……。  「だめだ、少し散歩してこよう」  ついでに手足も思い切りのばしたくなって、廊下へ出た。  部活所属の生徒以外は、ほとんど帰宅したようで、校舎の中は閑散としていた。  目立つゴミを拾いながら歩いていくと、野球部員の掛け声や、バットにボールを当てる音がグラウンド側から聞こえた。  ふと思い立って、階段をどんどん上がった。  屋上から、グラウンドを見たくなったのだ。この数日前頭を駆使してずっと俯いて黙々と作業していたから、とにかくスカッとしたかった。  体重をかけて、重い扉を開ける。  少し前まで、昼休みに五藤くんとランチしていたのに、顔面や身体に風を受ける感覚が、すでに懐かしく感じた。  前から風に押されるが、グラウンド側の手すりへ向かった。    

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