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アクシデント再び 4

 給水等を横切ると、つい足を止めて、いないはずの人物のことを思った。  五藤くん、テストの出来はどうだったかなあ。今はテスト勉強から解放されて、仲間と遊びに行ってるのかもしれない。 「ほんと、相変わらずね。優しくないんだから」  えっ!?  いきなり人の声が聞こえて、僕は慌てて給水塔の裏側にサッと隠れた。  ……珍しいなあ。    昼休みの屋上なんて、五藤くんと僕くらいしか上がってこなかったのに、先客がいたみたいだ。  咄嗟に隠れてしまったけど、そのままUターンすれば良かったと、今頃気付いた。  なんで隠れたんだよ! これじゃ、人の会話盗み聴きする人みたいじゃん!  胸の中で自分に突っ込んでみるが、動くことも出来ない。  ど、どうしよう……。  後悔しても遅いけど、いつもギイギイ鳴る扉が今回は無音で開いたのも良くなかった。  それでなんで隠れた! 僕! なんで?  さっきの声は女子生徒だろうか。もう一人の男性の声がボソボソと聞こえるけど、内容まではわからない。 「だって、あなたが優しくないから……」  ボソボソ 「そうだけど、あなたに焼きもち焼いて欲しかったのよ、本気で別れたいなんて思ってるわけないでしょ。あの人の事は別に好きじゃなかったし、頼まれて何度かデートしただけよ」  ボソボソボソ 「信じてよ! だって、だって私は……」  ボソボソボソボソ  女子生徒の割には大人っぽい声だな。  そんで、相手の男性の声は小さくて何を言ってるかわからない。興奮気味の彼女と違い、ひどく落ち着いている印象だ。  第三者の僕の耳には、二人の間に温度差を感じる。もう既に、互いの気持ちが通じ合っていないような。 って!   生徒の会話を隠れて聞いて勝手に分析しちゃってんの、僕! だめでしょ! 「私やっぱり貴也が好き。ねえ、私達やり直せない?」  ――えっ? うそ……  まさか……。  僕の足は、引き寄せられるようにフラフラと給水塔を回り込み、声のする方へ近づいていった。ダメだと思うのに、足が止まらない。  そこには、食堂で見かけた塩谷エリナと五藤くんが、向かい合っていた。  僕の立つ位置からは、五藤くんの顔は、見えない。  ――だめだ、立ち聞きなんか――  そう思うのに、僕の足はそこから動けなかった。 「ごめん、おまえとはもう無理だ」 「どうしてよ! 私が他の人とデートしたから? しばらく連絡しなかったから? あんまりしつこくして嫌われたくなかったのよ」 「それは関係ない。それに、おまえの卒業前には、もう……俺に気持ちがなかった。はっきり伝えなくて悪かった」 「もう我儘言わないから、お願い。気持ちがなくてもいいから」  はあっ、と、五藤くんの重いため息が聞こえた。 「ごめん」 「なによ……まさか他に、好きな子がいるんじゃないでしょうね」  五藤くんの肩が微かに揺れた。 「――いる。……大事なやつが」  ……え?  塩谷エリナがヒュッと息を吸い込み、大きな目を更に大きくした。  僕は、脳みそが停止してしまった。 「誰よ、クラスの女子?」 「違う。年上……だけど、手のかかるやつ」 「……望みありそうなの? その人」 「どうかな。わかんねえけど、触っても怒られはしねえな」 「……バカ。聞かなきゃよかった」  

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