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想いが溢れて 1
「いつまで泣いてんだよ……もう泣きやめよ」
「ふっ……ひっ……うっ…」
「おい」
「うっ……ぐっ……だって……うぅ」
「はあ……」
どのくらい時間がたったのだろうか。僕の涙腺はずっとゆるみっぱなしだったから、もう時間の感覚が麻痺している。
ここは、学校から一番近い病院の待合室だ。
屋上への階段踊り場で、動かない五藤くんを前に僕はパニくってフリーズしていた。全く役に立たない状態だった。(五藤くんが大怪我したのに!)
運よく、まだ学校に残っていたカジくんが、五藤くんを捜しに屋上まで来てくれた。そこで、倒れてる五藤くんと、その横で大泣きしている僕を発見した。
五藤くんの怪我が頭部だったから、機転を利かせたカジくんは救急車を呼んだ。そして素早く職員室に報告に行き、腰が抜けた僕をタクシーに乗せ、五藤くんが運ばれた病院に連れてきてくれたのだ。
「……ったく、119番通報したのなんて、生まれて初めてだぜ」
「うっ、ふっ、うっ」
「前にバイト先で、転んで頭打って血ぃ流した客がいてさ。店長が迷わず救急車呼んでたんだ。頭はちゃんと検査しないと後で取り返しがつかなくなるからって」
「ひいっ! ううっ!」
ええっ、そんな! と、僕は言いたかった。
「だから! 貴也は検査したから大丈夫だろ!」
「はあっ、ふぅ……」
ああ、よかった。
「ほとんど下校しててマジでよかったよな。通常時に救急車なんか来たら大騒ぎだったろ」
「ふ……うん……。あの、ご、め……んね……」
「あ?」
「迷惑、か、けて……」
僕の身体は、ヒックヒックと嗚咽のたびに、身体がぴょこんぴょこんした。
長椅子の隣に座るカジくんがそんな僕を見て、「あ――っ! くそっ!」 といいながら金髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
「あの鬼の松澤の正体が、コレかよ! ……恐れいった。青天の霹靂って、こんな時に使うんだよな?」
僕はちゃんと声が出せない代わりに、ぶんぶん頭を縦に振った。
パタパタと足音が近づいてきた。涙でぼやけた視界に、看護士の白いユニフォームが見えた。
「五藤さんの学校の先生ですよね、検査と治療が終わりましたので、こちらへどうぞ。先生の説明があります」
看護士は、泣きはらした顔の僕に一瞬驚いたようだった。
「はい、わかりました。ほら、行くぞ」
カジくんに腕を引っ張られ、僕はずるずると診察室まで連れて行かれた。
初老の医師は、泣き腫らした顔の僕と、カジくんの顔を交互に見ながら説明を始めた。途中から、僕が役立たずだと気づいたらしく、カジくんに狙いを定め出した。
「検査一通り終了しました。一応ね、脳波とかも診ましてね、あ、それは異常無しです。傷口は、細かく縫ったので、六針です。軽く麻酔を使ったからそれが効いてね、眠っていますよ。本人が起きれば、帰宅できますから」
「はい、わかりました。ありがとうございました」
「六針……」
そんな! どうしよう、五藤くんの綺麗な顔に傷が残ったら!
それを聞いた僕の目頭が再びじわりと熱くなった。
それを見たカジくんが慌てて医師に一礼して僕も立たせると、診察室を後にした。
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