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想いが溢れて 2

 カーテンで仕切られた一番奥のベッドに、五藤くんは横たわっていた。  ぐっすり眠っているようだけど、額に貼られた大きなガーゼが、痛々しい。  ベッド脇の丸椅子に座るようにカジくんが促してくれたから、それに腰かけ、五藤くんの寝顔を見守った。ただ見つめることしかできなくて切ない。大好きな彼に、怪我をさせてしまった自分を責めたかった。 「ったくよー。なんで貴也が怪我しなきゃなんねーんだよ。おまえ、貴也に何かしたのか?」  カジくんは小声で僕に言った。僕はぶんぶん首を振った。 「屋上で偶然五藤くんに会って、それで……階段から僕が落ちて、五藤くんが僕をかばって……」(小声) 「はあ? なんだ、その幼稚園児みたいな説明はよ、おまえ国語のセンセイじゃなかったか? ちっともわかんねーよ!」(小声)  カジくんの憤りは、当然だと思った。  彼にしてみれば、僕みたいな嫌われ者の教師のせいで、親友が六針も縫う怪我をしたことが理不尽なのだ。    カジくんの、五藤くんを心配する真っすぐな瞳を見て、五藤くんがどんなに彼らに慕われているか、思い知った。  三樹くんや、一緒に暮らしてるお母さん。マモルくんとカジくん。親しくなってから、五藤くんが優しくて面倒見のよい性格だって知った。  きっと他にもまだまだ、彼を慕う友人が大勢いるはずだ。 「ごめんね、カジくん。あの、僕もう、五藤くんに迷惑かけないから、許してね……」  そうだ、離れよう。僕は彼に近づかない方がいい。好きだからこそ、これ以上迷惑かけたくない。  辛いけど……そうするしかないんだ。  カジくんは、何か言いたげに口を開いたけど、黙って五藤くんの寝顔に視線を向けた。     僕は静かに立ち上がり、部屋を出ようと、スライドドアに手をかけた。 「おい貴也、大丈夫なのか?」  その声に振り向くと、カジくんに身体を支えられ、五藤くんがベッドから起き上がった。その目は真っすぐ僕を見ている。 「そいつをあんまりいじめるな、カジ」  そいつって……僕のこと? きゅっと胸がしめつけられた。僕は再びドアに身体を向けた。やばい、また泣きそう。 「はっきりいって、そいつは大人のくせに、三樹より手がかかるヤツなんだよ」  だめだ、涙溢れそう。僕はそっとドアを開けた。 「おいこら、話があるからまだ帰るな! カジ……悪いけど、そいつと二人にしてくれないか」  僕とカジくんが同時にえっ? と驚いた。  僕は、二人きりになりたくなかった。自分の気持ちをうまく隠す自身がないからだ。  ふうっと短いため息が聞こえて、カジくんが僕の近くに来た。 「ま、俺もこれからバイトだし、貴也も平気そうだし。帰るよ。……じゃあな」 「ごめん、さんきゅ、カジ」  ドアの向こうに消える直前、カジくんは僕に向かって右手中指を立てた。  でも、もう睨んでいなかった。僕は、五藤くんに背中を向けたまま、動けなかった。 「こっち、来いよ」  ゆっくり振り向くと、五藤くんがじっと僕を見ていた。背中がぴりっと粟だった。その声に導かれ、僕はふらふらとベッドに近づいた。彼は枕を背もたれにして座っていた。 「横にならなくて、平気?」 「ここ、座って」

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