41 / 76
想いが溢れて 2
カーテンで仕切られた一番奥のベッドに、五藤くんは横たわっていた。
ぐっすり眠っているようだけど、額に貼られた大きなガーゼが、痛々しい。
ベッド脇の丸椅子に座るようにカジくんが促してくれたから、それに腰かけ、五藤くんの寝顔を見守った。ただ見つめることしかできなくて切ない。大好きな彼に、怪我をさせてしまった自分を責めたかった。
「ったくよー。なんで貴也が怪我しなきゃなんねーんだよ。おまえ、貴也に何かしたのか?」
カジくんは小声で僕に言った。僕はぶんぶん首を振った。
「屋上で偶然五藤くんに会って、それで……階段から僕が落ちて、五藤くんが僕をかばって……」(小声)
「はあ? なんだ、その幼稚園児みたいな説明はよ、おまえ国語のセンセイじゃなかったか? ちっともわかんねーよ!」(小声)
カジくんの憤りは、当然だと思った。
彼にしてみれば、僕みたいな嫌われ者の教師のせいで、親友が六針も縫う怪我をしたことが理不尽なのだ。
カジくんの、五藤くんを心配する真っすぐな瞳を見て、五藤くんがどんなに彼らに慕われているか、思い知った。
三樹くんや、一緒に暮らしてるお母さん。マモルくんとカジくん。親しくなってから、五藤くんが優しくて面倒見のよい性格だって知った。
きっと他にもまだまだ、彼を慕う友人が大勢いるはずだ。
「ごめんね、カジくん。あの、僕もう、五藤くんに迷惑かけないから、許してね……」
そうだ、離れよう。僕は彼に近づかない方がいい。好きだからこそ、これ以上迷惑かけたくない。
辛いけど……そうするしかないんだ。
カジくんは、何か言いたげに口を開いたけど、黙って五藤くんの寝顔に視線を向けた。
僕は静かに立ち上がり、部屋を出ようと、スライドドアに手をかけた。
「おい貴也、大丈夫なのか?」
その声に振り向くと、カジくんに身体を支えられ、五藤くんがベッドから起き上がった。その目は真っすぐ僕を見ている。
「そいつをあんまりいじめるな、カジ」
そいつって……僕のこと? きゅっと胸がしめつけられた。僕は再びドアに身体を向けた。やばい、また泣きそう。
「はっきりいって、そいつは大人のくせに、三樹より手がかかるヤツなんだよ」
だめだ、涙溢れそう。僕はそっとドアを開けた。
「おいこら、話があるからまだ帰るな! カジ……悪いけど、そいつと二人にしてくれないか」
僕とカジくんが同時にえっ? と驚いた。
僕は、二人きりになりたくなかった。自分の気持ちをうまく隠す自身がないからだ。
ふうっと短いため息が聞こえて、カジくんが僕の近くに来た。
「ま、俺もこれからバイトだし、貴也も平気そうだし。帰るよ。……じゃあな」
「ごめん、さんきゅ、カジ」
ドアの向こうに消える直前、カジくんは僕に向かって右手中指を立てた。
でも、もう睨んでいなかった。僕は、五藤くんに背中を向けたまま、動けなかった。
「こっち、来いよ」
ゆっくり振り向くと、五藤くんがじっと僕を見ていた。背中がぴりっと粟だった。その声に導かれ、僕はふらふらとベッドに近づいた。彼は枕を背もたれにして座っていた。
「横にならなくて、平気?」
「ここ、座って」
ともだちにシェアしよう!