43 / 76
想いが溢れて 4
「ごめんね、五藤くん。変なこと言って。びっくりしたよね」
「すっげえびっくりした……」
気持ちを言ってしまって僕はすっきりしたけど、五藤くんは怪我人なのに、こんなこと聞かされたら、すごく迷惑な状況なんじゃない、これって?
免疫が急低下して、怪我の治りが遅かったらどうしよう。
はあーっと耳もとで長いため息が聞こえた。優しい彼のことだ。どうやって僕を傷つけずに振ろうか、思案しているのかもしれない。
「誤解するな、嬉しくてびっくりしてんだよ」
「えっ……」
うそ、と思わず呟くと、五藤くんは僕のほっぺをキュッと摘まんで「嘘じゃねーぞ」と息を含んだ声で僕の耳元に囁いた。
「迷惑じゃないの……?」
「んなわけねえ」
五藤くんは腕をゆるめると、僕の身体をゆっくり引き離した。
僕は告白できて、正直ほっとしていたし、彼が迷惑に感じてないのがとにかく嬉しくて。彼に嫌われなければいい、それだけだった。
両腕をつかむ彼の手の平が熱かった。至近距離で見つめ合う。彼の瞳はどこまでも深い色で、きらきらしている。ずっとこの瞳を見つめていたいと思った。
第一段階を超えて極度の緊張感から解放された僕は、少し大胆になっていたのだと思う。彼の顔にかかる黒髪をそっと指ですいた。
「五藤くんのこの綺麗な髪、触ってみたかったんだ……」
硬いのかなと思ったら、意外に柔らかくてサラサラだ。僕はうっとりと、その手触りを堪能した。五藤くんは、僕にされるがままになっている。
「こんなの触って楽しいのか」
「うん」
五藤くんは「よっ」言うと、僕の身体を再び持ち上げてベッドの上に乗せた。
「ちょっ……」
「俺を跨いでここに座れ」
「ひぇっ」
ストン、と身体が着地した場所は、五藤くん足の上。っていうか、股間の上。そこに向き合うように座らされた。
「やっ、誰か来たら」
「ここは静かだから、足音でわかるから大丈夫だ」
「で、でも」
だってこの格好、すごく……エッチな体勢だよ?
これで僕が可愛いナースだったら、エッチなDVDの表紙とかになりそうな感じだよ!
なのに、五藤くんは少し意地悪な笑顔で平然としている。
僕はきっと顔が真っ赤になってる。顔も涙と鼻水で情けない状態だし、恥ずかしすぎる!
それにこの体勢、バランス保つの大変だ。五藤くんは怪我人だから寄りかかれないし。
「ね、やだよ、この格好」
「少しだけだから頑張れ。……なあ、おまえ、俺の事どんな風に好きなの」
「えっ……そ、それは」
五藤くんは真正面から僕をじっと見つめた。上に乗ってる僕の方が五藤くんより視線が高い。だから五藤くんが上目遣いになって、なんか、なんかエロイい!
なんで? 額に貼られたガーゼのせい?
「ほら、言って」
「い、いじわる……」
そんなこと恥ずかしくて言えないよ!
僕がまた涙目になってるの気づいてるくせに、なんで五藤くんこんなに意地悪なの。
僕を支えてる五藤くんの手が、ゴソゴソし始めた。
「ちょっ」
カーディガンの下に手を入れて、ワイシャツをスラックスから引き抜いている。
「やっ、なにやってんの」
「暑くね? ここ」
「だからって、――んっ」
僕が自分のシャツに気を取られている間に、柔らかいものがふにゅん、て僕の唇に当たった。
ともだちにシェアしよう!