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もやもや 1

 十二月下旬。  晴れの日は日中暖かいけれど、朝の気温は日を追うごとに下がり、徐々に冷え込みが厳しくなってきた。  今朝の僕は、スーツの上着を脱いだ上にマフラーを巻いてるだけの恰好でゴミ拾いをしていた。 「もうすぐ冬休みだもんなあ、そりゃ寒いよな……」  動いている間はいいのだ。屈伸運動のようなものだから、続けているうち身体がポカポカしてくるから。  けど、こうしてボケーッとじっとしていると、身体はどんどん冷えてくる。二重に巻いていたマフラーを、三重に巻き直してから、僕は渡り廊下の隅っこでデッキブラシを身体の支えにしてポケーッとした。 「そっか、もうすぐ冬休みか……」  冬休み。年末。年越しそば。紅白歌合戦。年越し。そして、初詣。  なんだか、この数週間ずっともやもやしている気がする。  もやもやもやもや  もやもやもやもや  ん? もやもやじゃなくてもんもんかもしれないけど(似たようなもんか)誰かに聞いてもらいたい。そんでもって、もやもやもんもんするのを終わりにしたい。  もやもや言い過ぎて何だかよくわからなくなってきた。 「はああ……」  吐く息はまだ白くはないけど、その季節はもう迫っている。 「あー、つっくんだ、つっくんおはよー」  登校してきたマモルくんが、僕に向かって手をブンブン振っている。  マモルくんはアレだな……見た目はスキンヘッドで厳ついけど、おつむは弱そうで僕と良い勝負だな。 「おはよー。あ、マモルくん、マフラーずれてるよ」  首がほとんど見えてしまっている。  ファッションで巻いてるのかもしれないけど、僕はドクロのおどろおどろしいイラストのマフラーを巻き直してあげた。 「へへ、つっくんありがとう」 「マモルくんはえらいね、ちゃんとお礼が言えて」  マモルくんは素直だし話してみるといい子だ。なのに、見た目とのギャップが激しすぎて、慣れるまでは毎回脳みそが混乱していた。 「えへへ~、つっくんにほめられちゃった~」    すごく嬉しそうだなあ。あれ? 僕って小学校の先生だっけ? 高校だよね。 「おい、ここは幼稚園じゃねーぞ」  後から来たカジくんが微妙な顔つきで言った。少し後ろには五藤くんもいる。 「カジくん、五藤くん、おはよう」 「うっす」  カジくんはポン、と僕の頭を撫でた。 「はよ」  五藤くんは、毎朝必ず僕のほっぺたの具合(?)をチェックする。 「うん、今日も手触りよくて、弾力も申し分ないな」 「えー、三樹くんとどっちが手触りいいの?」 「五歳児と張り合う気かよ」  僕がぷうとぽっぺを膨らませると、カジくんがまた微妙な顔で言った。 「はーい、イチャイチャは昼休みまでお預けでーす」  と言って、五藤くんを引っ張って行ってしまった。マモルくんは慌ててその後を追う。 「あっ……」  カジくんめ。僕と五藤くんの唯一の朝の触れ合いを……。 「あ、ヤバい、今日は当番だった!」  僕もそそくさと職員室に向かった。 ◇ 「えー、それってさあ、欲求不満じゃない?」  僕が相談を持ちかけたときから佐尾先生がニヤニヤしてるから、ちょっと嫌な予感はあったけど。

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