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もやもや 2

「よっ……きゅう……? ち、違うよ!」  違う……はずだ。多分。 「えー、だってもやもやもんもんするんでしょ。そりゃ欲求不満だわ。はい、決定」 「そんなこと!」 「ちゃんと相手に気持ち伝えたら? 言わないとわからないわよ」 「うん……」  つい素直に答えてしまい、はっと顔を上げると、佐尾先生がニヤリと笑っていた。  しまった! 「やっぱり、つっくん彼女できたんだぁ~。あ、もしかして彼氏だったり?」  ドキッとする。 「ち、ちちちが」 「違うの?」 「違わない、です……」  あ、ついバカ正直に言ってしまった。ニヤニヤしてた佐尾先生の顔がちょっと意外そうな顔になる。素の表情だ。 「そっかあ~」 「……何が」  僕は恥ずかしくて穴があったら入りたい心境だった。 「なんかさあ、最近のつっくんて、肩の力が抜けてきてる感じがしたから安心してたんだよね。そっか、彼のおかげだったのね」 「えっ、僕、変わった?」 「自覚無しかーい! ……それで「彼」ってのは否定しないわけね、うふふふー」 「あっ!!!」  わー、僕のばかばかばか! そこは真っ先に否定しなくちゃだろ~! 「ま、とにかく安心したわよ。そもそも、以前のつっくんすっごく不自然だったから心配だったし。そのうちポキッて折れちゃうんじゃないかってハラハラしてたから。本当によかったわ」  え? 「彼氏」問題はもう通り過ぎちゃったの? もういいの? 追求しないの? 「よかったね、つっくん。大事にしてもらってるんでしょ」 「……うん」  僕は五藤くんの顔を思い浮かべて、気持ちがほっこりして、次には身体が熱くなって。  ……あれ? やっぱりまたもやもやもんもん……する。 「いいなあ~、あたしも彼氏欲しいなあ~」  佐尾先生は去年、大学時代から付き合ってた恋人と別れたと話していた。 「佐尾先生、生徒から大人気だし美人だから、その気になればすぐ見つかりそう」  思ったままを口にしたら、佐尾先生は目を限界まで見開き僕をガン見して、ふるふる震え出した。  えっ、どうしたの? 怖い! 「つっく――ん!」  ガバッと頭ごと抱きしめられ、目の前が真っ暗になる。 「ちょっ、何! 痛い痛い!」 「もお~、なんって可愛いこと言ってくれるのかしら! この子は~」  頭をぎゅうぎゅう胸に押し付けられ、柔らかいものを感じるんだけど、昔散々姉達にプロレスの技をかけられたから、それを思い出して不快感しかなかった。  それに、生徒に見られるじゃん!  僕と佐尾先生が座っているのは、職員室と食堂と、他の校舎へ続く通路が十字路の交差点みたいになってる場所にあるベンチだ。 「ちょっと、やめて! 放してよ! わあっ」  急速な浮遊感にびびって一瞬目を瞑ると、耳元に聞き慣れた声がした。 「佐尾先生、こんなに生徒が大勢行き交う場所でそんな目立つことしてると、変な噂が立ちますよ」  いつもより声が低い気がするのは気のせいかな? 「あらやだ……」  佐尾先生、その察した感じの声と顔、やめて。 「ご、五藤くん……」  五藤くんが、猫を捕まえるような手つきで僕の身体を持ち上げていた。  ……にゃあ。

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