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もやもや 4
五藤くんの大きな口が、おにぎり(唐揚げ入り)にバクっと噛みつく。もしゃもしゃと咀嚼し、次にはインゲンの白あえに箸が伸びた。
口元をじっと見てると、ドキドキしてくるなあと思いながら、僕は彼に訊いてみた。
「ねえ五藤くん」
「ん?」
口の中はご飯とおかずで満杯だから、五藤くんは目で「なんだ?」と僕に問いかける。
「僕と五藤くんて、付き合ってるんだよね」
「ん」
五藤くんは頷いた。
「それってさ、恋人ってこと、だよね」
「ん」
五藤くんはもぐもぐしながら、「なんでそんなこと聞くんだ?」って感じに眉を動かした。
「あのさ、僕達って。あ、てゆうか、僕に……」
もぐもぐもむしゃむしゃ
「エッチなことしたくならないの?」
「ぐほっ!」
「わっ」
吹き出しはしなかったけど、五藤くんは苦しそうにゴホンゴホンむせた。彼の背中をバンバン叩いていてから、僕は水筒を手に取る。
「はいお茶!」
僕の差し出した麦茶を、五藤くんはゴキュゴキュ飲んだ。
落ち着いたらしく、ふうと息を吐きだした。
「大丈夫? 変なとこにご飯が入ってない?」
「ふう……大丈夫、だ」
あ、涙目になってる。初めて見たなあ、なんか可愛い。
「あー、びっくりした。息止まるかと思った」
「もうー、こっちもびっくりしたよぅ」
五藤くんは麦茶をもう一口飲むと、キッと僕を睨んだ。
「おまえが変なこと言うからだろ!」
「僕、変なことなんて言ってないよ、恋人なら普通のことじゃん」
「いや、でも、おまえ……」
五藤くんは、いつもの余裕のある感じじゃなくて、よそよそしく視線を逸らした。
なんだろう、五藤くんのこの態度。
あれ? 僕、間違ったこと言った? 言ってないよね。
「僕達、恋人になってからいっぱいキスしたよね」
「あ、ああ」
そうだ。可愛いキスから、舌を絡めちゃうような大人の濃厚なキスも沢山した。何度も。でも、いつもそこまでで終わり。
「そうか、僕……」
この、もやもやもんもんの正体はまさにこれだったんだ。
僕、五藤くんと、甘々な恋人達がするような、エッチなことしたいんだ。
「僕……したい」
「はっ?」
「ねえ、五藤くんとしたいよ」
僕が五藤くんにぐっと近づいて目をのぞき込むと、五藤くんはわかりやすく狼狽した。
「したいって、おまえそれ意味わかって言ってんのか」
「わかってるよ。セックスでしょ」
バッと五藤くんの手が僕の口を塞いだ。
「んんん~~!」
「何を言い出すのかと思えば」
五藤くんはため息をつくと、反抗する僕を腕の中に閉じ込めた。
口は自由になったけど、正面からきつく抱き締められてるから、苦しい。
「つっくんにはまだ早い」
「なんで? 僕大人だから平気だよ」
「焦ってやるもんじゃないだろ」
頑なな五藤くんに、僕は突っかかりたくなる。
「付き合う前、僕にエッチなことしようとしたくせに……」
地下の資料室とか、病室とかで。
「ああ、あれで反省した」
「えっ」
五藤くんは僕の身体をヒョイと持ち上げると、膝の上に乗せた。その顔は、なんか――。すごく、困った顔だった。
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