49 / 76

もやもや 4

 五藤くんの大きな口が、おにぎり(唐揚げ入り)にバクっと噛みつく。もしゃもしゃと咀嚼し、次にはインゲンの白あえに箸が伸びた。  口元をじっと見てると、ドキドキしてくるなあと思いながら、僕は彼に訊いてみた。 「ねえ五藤くん」 「ん?」  口の中はご飯とおかずで満杯だから、五藤くんは目で「なんだ?」と僕に問いかける。 「僕と五藤くんて、付き合ってるんだよね」 「ん」  五藤くんは頷いた。 「それってさ、恋人ってこと、だよね」 「ん」  五藤くんはもぐもぐしながら、「なんでそんなこと聞くんだ?」って感じに眉を動かした。 「あのさ、僕達って。あ、てゆうか、僕に……」  もぐもぐもむしゃむしゃ 「エッチなことしたくならないの?」 「ぐほっ!」 「わっ」  吹き出しはしなかったけど、五藤くんは苦しそうにゴホンゴホンむせた。彼の背中をバンバン叩いていてから、僕は水筒を手に取る。 「はいお茶!」  僕の差し出した麦茶を、五藤くんはゴキュゴキュ飲んだ。  落ち着いたらしく、ふうと息を吐きだした。 「大丈夫? 変なとこにご飯が入ってない?」 「ふう……大丈夫、だ」  あ、涙目になってる。初めて見たなあ、なんか可愛い。 「あー、びっくりした。息止まるかと思った」 「もうー、こっちもびっくりしたよぅ」  五藤くんは麦茶をもう一口飲むと、キッと僕を睨んだ。 「おまえが変なこと言うからだろ!」 「僕、変なことなんて言ってないよ、恋人なら普通のことじゃん」 「いや、でも、おまえ……」 五藤くんは、いつもの余裕のある感じじゃなくて、よそよそしく視線を逸らした。  なんだろう、五藤くんのこの態度。  あれ? 僕、間違ったこと言った? 言ってないよね。 「僕達、恋人になってからいっぱいキスしたよね」 「あ、ああ」  そうだ。可愛いキスから、舌を絡めちゃうような大人の濃厚なキスも沢山した。何度も。でも、いつもそこまでで終わり。 「そうか、僕……」  この、もやもやもんもんの正体はまさにこれだったんだ。  僕、五藤くんと、甘々な恋人達がするような、エッチなことしたいんだ。 「僕……したい」 「はっ?」 「ねえ、五藤くんとしたいよ」  僕が五藤くんにぐっと近づいて目をのぞき込むと、五藤くんはわかりやすく狼狽した。 「したいって、おまえそれ意味わかって言ってんのか」 「わかってるよ。セックスでしょ」  バッと五藤くんの手が僕の口を塞いだ。 「んんん~~!」 「何を言い出すのかと思えば」  五藤くんはため息をつくと、反抗する僕を腕の中に閉じ込めた。  口は自由になったけど、正面からきつく抱き締められてるから、苦しい。 「つっくんにはまだ早い」 「なんで? 僕大人だから平気だよ」 「焦ってやるもんじゃないだろ」  頑なな五藤くんに、僕は突っかかりたくなる。 「付き合う前、僕にエッチなことしようとしたくせに……」  地下の資料室とか、病室とかで。 「ああ、あれで反省した」 「えっ」  五藤くんは僕の身体をヒョイと持ち上げると、膝の上に乗せた。その顔は、なんか――。すごく、困った顔だった。

ともだちにシェアしよう!