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もやもや 5

「俺は、もうおまえを泣かせたくない」 「五藤くん……」  五藤くんの大きな手の平が、僕の顔を包んだ。凄く、大切なものを触るみたいに優しい手つきで。 「おまえ、絶対泣くだろ」 「そりゃ、未知の世界だから怖くて泣いちゃうかもしれないけど」 「ほらな」  僕はムキになって言い返した。 「でも、気持ちよくてもきっと泣いちゃうよ」 「は?」  五藤くんはびっくりした様子で、次には額に手を当てて大きくため息をついた。 「おまえな……無邪気に煽るなよ」 「へ?」  ひどく呆れたような顔をされて、僕は面白くなくてぷくっと頬を膨らませた。  五藤くんの顔が近づいて、チュってキスをされる。  すぐ離れてく唇を追いかけて、僕ははむって五藤くんの唇を捕まえた。 「こら、火い付けんなよ」 「昼休み終了まで、まだ時間あるよ」  僕はニッと笑った。  五藤くんは舌打ちして、両手で僕の両耳を塞いだ。  僕が少し口を開けると、そこにするりと舌が差し込まれる。僕は歓迎するみたいに五藤くんの舌に自分のを巻き付けた。 「ん……ふぅ」  凄く、気持ちいい。  キスをすると、僕はいつも身体の力が抜けちゃって、そんな僕を五藤くんがしっかりと支えてくれる。  耳を塞がれてるから、くちゅくちゅと舌を絡める音と、チュッチュッて音が耳の中で大音量になって、頭がぼうっとして。  気持ちいい、嬉しい。  そんな思いでいっぱいになっちゃう。  五藤くんは知らないのかな。  こんな風に、僕なんかを相手に夢中でキスしてくれる五藤くんが愛しくて嬉しくて、毎回泣きたくなっちゃうってこと。 「五藤くん、大好き」  そう言ったら、睨まれた。 ♢  僕は二年A組の教室の前で、ため息を零した。 「午後はE組の授業なくてよかったなあ」  あんなに大人のエロいキスしたすぐ後で、五藤くんのいる教室でしれっと授業なんてできないよ。だって、思い出しちゃいそうで。 「えっと、今日は二十七ページからだったかな……」  僕が教壇に立って教科書をめくって首を傾げていると、 「つっくん、三十ページだよ」  親切な男子生徒が教えてくれた。 「わあ、ありがとう。うっかりしちゃった、えへへ」  ほわん、と教室の空気が和んだ気がした。A組は前から親切な人が多かったけど、最近は特に優しいんだよなあ。  僕は三十ページを開いて、黒板に向かった。  カキカキコツコツ  カキカキコツコツ  コッ 「あ、折れちゃった」  チョークが折れて落ちてしまい、拾おうとしたら、それよりも早く前の席の男子生徒が拾ってくれた。 「はい」 「あ、ありがとう」 「つっくん、◯◯のチョークは折れにくいよ」 「え、そうなの? へえ、チョークにも色々あるんだねえ、探してみるね」  男子生徒は、さっと自席に戻ると、何かを取り出して僕に見せた。 「同好会で使用してるやつなんだけど、余分にあるからこれあげるよ」  眼鏡をかけた真面目そうな彼は(学園内では珍しいタイプだけど)、さっと前髪をかき上げ、未使用のチョークを二本、僕の手に握らせた。 「えっ、いいの?」 「あ、うん。平気平気、まとめ買いしたから安かったし気にしないで」 「うわあ、ありがとう、さっそく使ってみるね」

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