52 / 76
もやもや 7
野太い声で「つっくんごめん」も聞こえてきて、皆が謝ってくれてる。
違うんだ、君達のせいじゃなくて、これは僕の問題で……。
生徒達に心配かけてしまったことが情けなくて、僕の涙はますます止まらなくなってしまった。
僕が泣いてしまったことで授業が中断されて、でも後半は堪えて何とか頑張った。皆に応援されながら。
黒板に板書して、教科書読んだり説明ができると、生徒の声が「つっくんよく言えたね」「えらいよ」「頑張れ」って聞こえて、また感動してジワってきちゃうんだけど、我慢した! 頑張った!
やっとこさ授業を終えて、職員室に戻り、(女子生徒二人に職員室まで送ってもらったけど)自席に座った僕の周囲には、教師たちがわらわら集まってきていた。
なぜか、みなさん大爆笑中。
え、ひどくない? そんなにお腹抱えて笑うほどのこと?
最初に笑い出した佐尾先生は、笑いすぎてお腹が痛いらしく、今度はお腹を押さえて涙を浮かべている。
「ちょっとぉ……佐尾先生」
「いたたたたた、いたい、あは、あはは、いたい、いたたた、あはははははっ」
人を指差して笑うのやめて。
以前、五藤くんにチョークを拾ってもらったと言っていた年配の男性教諭もお腹を抱えている。
「送ってくれた女子生徒が二人とも背が高いから、余計面白い図になったんだよね」
「えっ、そんなに?」
「そ、そうよ、ほらあの、ロズウェル事件の宇宙人みたいだったもん」
「宇宙人……」
手は繋いでなかったけど。
「まんま保護されて連れてこられた迷子みたいだったよね」
と、ほかの男性教諭。
「ちょっと、みんな笑いすぎよ。つっくんがかわいそうじゃないの、頑張ったのに……ふふふふふ」
と、僕のお母さんと同世代の女性教諭(笑い堪えてる)
「でもさ、クラスの生徒が皆で協力し合って授業を終わらせた感はあるよね。まあ、友達を励ましたり、助けたり、面倒見たりってのは大抵小学校で経験するものだけど」
「そうそう。ただ、この場合その対象は友達じゃなくて先生だけどね……ぷふっ」
また爆笑。
真面目にフォローしようとしてくれてた先生も、笑いを堪えていたらしく、身体を震わせている。
皆さん楽しそうで何よりですね!
大爆笑中の皆を尻目に、僕は自席で一人プリプリしていた。
まあでも、笑ってくれるならありがたいよな。
「教師なんだからもっとしっかりしなさい!」とか言われたらマジ泣きしちゃうもんね。
♢
昼休み、僕はいつもより更にうきうきした気分で保冷バッグと水筒を提げて廊下を歩いていた。
今日は、五藤くんリクエストのサンドイッチなのだ。
具材が多い上に二種類作ったからちょっと大変だった。ご飯メインのお弁当よりも、サンドイッチは手間と時間がかかる。念のため早めに起きて正解だった。
でも、五藤くんのためならえんやこらって感じだもんね。僕はほとんどスキップしながら廊下を進んだ。
「つ、つっくん!」
「わっ! びっくりした」
廊下の横から突然飛び出してきたのは、A組の眼鏡くんだった。チョークをくれた親切な彼だ。
ともだちにシェアしよう!