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もやもや 8
「あっ、びっくりさせてごめんね」
「め、眼鏡くん……じゃなかったスズキくん、そんなに急いでどうしたの」
スズキくんは走って来たからなのか、頬がほんのり赤い。
「あの、つっくんて、ランチいつもどこで食べてるの?」
「え? あっ……。えーと、外、かな」
女子生徒に誘われたことはあったけど、男子に訊かれるのは初めてだから驚いた。
スズキくんは頬を赤くしてモジモジしたあと、意を決したように顔を上げた。
「あ、あのっ」
え、なんでモジモジしてるのスズキくん。この流れってもしかして……。
「よかったら、俺と一緒に!」
スズキくんがそう言った次の瞬間、大きい手がぬっと僕とスズキくんの間に伸びた。
僕の抱えた保冷バッグがひょいと持ち上がる。ついでに水筒も。
「悪いな、こいつには先約がある」
「五藤くん!」
「――え?」
スズキくんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「てゆーか、つっくんとのランチはこの先もずっと、俺が予約済みだから」
五藤くんの大きい手の平が、僕の頭をポンポンした。
「ちょっと、五藤くん」
そんなこと言っちゃって大丈夫なの? 僕が心配で見上げると、五藤くんは不適な笑みを浮かべた。
――はあ、かっこいい……
いや、そうじゃなくて!
スズキくんは五藤くんが怖いのか、あるいはランチが五藤くんの予約済みだったのに驚いたのか(多分両方)固まっている。
「ご、ごめんねスズキくん。――そういうわけなんだ」
固まっていたスズキくんは、ハッとして「あ、そっか、それなら大丈夫! いいんだ、呼び止めてごめんね、じゃ!」
と言い残し、ターッと走り去ってしまった。なんだか後ろ姿に哀愁が……。
「スズキくん……」
親切なスズキくんを驚かせてしまい、申し訳ない気持ちになった。
僕がしょんぼりしていると、「おい、眼鏡くんとランチしたかったのかよ」と五藤くん。
「違うけど! 彼はA組の生徒なんだよ。――A組の人達は、最初から僕に優しかったから、だから……」
五藤くんは一拍遅れてから「――そっか」と言った。
そうなのだ。
僕が日々、E組のことで胃を痛くしていた時も、A組の授業がある日はホッとしていた。
自由学園だけど、成績だけではなく人それぞれの色んな理由で在籍する生徒も多い。高校生活を自由に送りたくて選択する生徒が多い中で、事情を抱えている人もいる。
まあ、それでも真面目な人はいないけど成績がずば抜けて良い生徒もいる。そんな生徒が集まっているのがA組だった。
A組の人達は、自由にこだわりがないから、厳しい態度で接していた僕を、普通に受け入れてくれていた。
そのことを五藤くんに打ち明けると、彼はなんとも複雑な顔をした。
「あれ? 今日の卵焼き微妙だった?」
「いや、そうじゃない。卵焼きはいつも通り美味い」
「そ?」
僕が首を傾げると、五藤くんは、むしゃむしゃ食べるのに集中し始めた。僕も焼きタラコおにぎりにかぶりついた。うん、やっぱりおにぎりの具は生より焼きだな。僕は頷きながらもぐもぐした。
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