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もやもや 9

「最近はランチによく誘われるだろ」 「あ、うん、おかげさまで」  五藤くんは呆れ顔になった。 「おかげさまって……。誘ってくるのは女子ばっかりだって言ってたじゃねえか」  五藤くんの目がジトッと細められた。あれ、もしかして五藤くん、嫉妬してる?  なんかちょっと嬉しくなって、僕は口元がニヤつくのを隠し切れなかった。 「こら、何ニヤニヤしてんだよ」  むにゅってほっぺを摘ままれて、「いたっ」って声が漏れるけど、痛くはない。 「男子でランチのこと聞いてきたのは、スズキくんが初めてだよ」 「そうか、あいつが第一号か。――要注意だな」  要注意? 何のことだろうと思いつつ、僕は昨日のA組での出来事を五藤くんに話して聞かせた。 「もうさー、ひどいと思わない? 職員室大爆笑だったんだよ」  僕が思い出してぷりぷりしていると、五藤くんの形の良い眉毛がきゅっと寄せられた。 「眼鏡くんからチョーク受け取ったとき、睨んで文句言ってたのはヤローだけだったのか」 「え? うん。女子の皆さんはみんな大人だからさ、やめなよ男子~って感じで注意してくれてた」 「ふ~ん、なるほどな」  五藤くんは、なんだか含みのある言い方をした。勝手に納得してるみたいな。 「えっ、なに、なにが?」  五藤くんは手早くお弁当箱を片付けると、よっこらせと僕を膝に乗せた。その一連の動きは僕もすっかり慣れてしまっている。ってゆーか、いつも食後は五藤くんの膝の上が定位置なんだけどね。(照) 「おまえさ、もしかして……男子生徒に告られたことあんじゃねーの」 「へっ」  何を言うのかと思えば……。 「もう~、何言ってんだよ五藤くん。ないよ、ないない! 女子からはあるけどね」  あ、ちょっと得意気な言い方になっちゃった。  五藤くんの大きな手が、僕の髪を優しく撫でる。(たまにほっぺ)言葉が少し乱暴なときでも、彼の手付きはいつだって優しい。 「そんときの生徒は中坊だったろ」 「まあ、そうだけど」 「A組の男子は学園の中じゃ真面目な奴らの集まりだよな。女と話すのが苦手な、例えばあの眼鏡くんみたいなタイプは、危険だぞ」 「スズキくんはそんな人じゃ」 「本人にその気がなくてもだ」  背後から五藤くんの腕が伸びて、ぎゅっと抱き締められる。僕もその手に自分の手を添えて、身体をすっかり預けた。 「別に、親切なスズキくんを悪く言うつもりはない。ただ、本人も気づかないうちに、つっくんのエロ可愛さにヤられてる可能性もある。――他の睨んでたやつらは自覚あるのかもな」 「えっ、エロかわ……?」 「俺達は見た目は大人っぽくても中身はまだ思春期のガキだ。衝動で暴走する危険をはらんでいるデリケートな年代だってこと、忘れるなよ」 「えええ~、お、脅かさないでよ」 「忠告してるんだよ。いつでも、俺が護ってやれるわけじゃないんだから」  はむっと耳朶に噛みつかれた。 「ひゃっ」 「俺だって、まだおまえのエロ可愛いとこ全部見てないんだから、誰にも見せんなよ。……必死で暴走を止めてんだから」  五藤くんの押し殺した声が耳元に響いて、身体がぞくっとした。  そんなの、我慢しなくていいのに……。

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