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もやもや 10

 でも……。  せっかくスズキくんが好意的に僕に話しかけてくれたのに、気を悪くしていないか心配だ。  それに、五藤くんのあからさまな態度は、僕達の関係が周囲にバレちゃうんじゃない? ってヒヤヒヤする。  何でも自由な「自由学園」だけど、どうしたって小さな不安は僕の中に常にある。きっとそれは、前の学校での経験が原因で、僕自身の問題なんだろう。  スズキくんは、そんなこと言いふらすような子じゃないと思いたいけど。 「みんな、五藤くんみたいに大人じゃないんだよね……」 「ん?」 「なんでもなーい」  せっかく五藤くんと二人きりなんだし、この貴重な癒しの時間を無駄にしたくない。  平日、五藤くんと二人きりになれるのは昼休みの屋上だけだ。    朝は必ずカジくんとマモルくんが一緒だし、方課後は、僕が残務処理に追われて帰宅が遅いことが多いし(要領が悪いからだけど)、五藤くんは、自宅で一人お留守番してる三樹くんのために、少しでも早く下校しないといけないから、平日に一緒に帰ったことはない。    でも、たとえ一緒に帰れたとしても、私服の五藤くんとスーツ姿の僕が並ぶと、悪目立ちしそう。  休みの日にデートしたのも二回だけ。三樹くんも一緒に、三人で映画と動物園に行った。楽しかったなあ。  そこで僕は初めて重大なことに気づいた――。  えっ、僕と五藤くん、もしかして二人きりでデートしたことがない?! 「大変だよ、五藤くん!」 「は?」  見上げると、五藤くんはポカンとした顔で僕の髪を撫でていた。 「僕達……」  ん? と優しい目で僕を見つめる五藤くんの目がすごく澄んでて綺麗だった。白目は真っ白で青味がかかっていて、大人びていても五藤くんはまだ十七歳の少年なんだって、実感した。  ――なんか、大人の僕がわがまま言うのは、ちょっと違うのかな……。 「なんだよ、どうした」 「ううん、なんでもなーい」  こうして毎日学校で会えるんだから、そのことに感謝しなくちゃね。  僕は、五藤くんをじっと見つめた後、目を閉じた。  ふっと笑った気配の後、五藤くんの顔が近づく。ふわりと与えられた唇の心地よさにうっとりしながら、僕は、新たに生まれたもやもやをお腹の中に仕舞いこんで、彼の腕をきゅっと掴んだ。 ♢  教室での席順は、基本的には自由だ。だから、教科によって生徒は入れ替わる。  僕の授業のときの、五藤くんはいつも窓際の一番後ろの席が定位置だ。その横と前に、水戸黄門の助さんと格さんよろしく、カジくんとマモルくんが座る。それは以前と変わらない。  変わったのは、五藤くん達以外の生徒だ。    ――で、この日の一時間目の授業は五藤くんのE組なわけだけど。  毎回、E組の前に来ると、前とは違う意味で緊張するんだよな……。  ガララッと戸を開け、教室内へ入る。  僕が「おはようございます」って言う声に被せて、皆の元気な声が教室内から勢いよく飛んでくるのだ。 「あ、つっくんだ! おはよー」 「つっくん今日もカワユス!」 「つっくーん、今日の朝ご飯何食べた?」 「つっくん、ネクタイ曲がってるぞー」 「あ、寝ぐせ発見」  

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