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だから用心しろって言ったのに 1

 職員室に入り、自分の机に鞄をドンと置いたところで思い出した。 「――あ、今日のお弁当は一人分でよかったんだ!」  五藤くん達二年生の教室がある校舎。その天井部分の老朽化が進んでいるのが、以前から問題視されていた。危険ではないかとの意見が保護者から寄せられたのが先月の事。  それで急遽、一斉に修繕工事が入ることになった。だから、今日一日、二年生は休みになったのだ。 「あ――っ! すっかり忘れてた!」  僕は保冷バッグに入った五藤くんのための一人分の弁当を見て途方に暮れた。どうしよう。職員室の冷蔵庫に入れておいて、夕飯に食べようか。  でも、今日はご飯ものじゃなくて野菜を沢山挟んだサンドイッチなのだ。先日、五藤くんに大好評だったから(大好評は言いすぎかな)また作ってきたのだ。  夜まで置いておいたら、野菜のシャキシャキ感がなくなってしまう。  二年生のクラスを持つ佐尾先生も、今日は有休をとっているし。 「えっと、今日いる先生は」  僕は職員室の壁に貼られた勤務表を見上げた。  比較的二年生担当の教師達とは仲が良いから、サンドイッチの引き取り手を捜そうとして……。 「えっ、うそ、みんな有休とってる!」  担任を持っている教諭は全員有休申請したようだ。 「みんな、チャンスとばかりに休みだねえ」  三年生担当の年輩の教諭に声をかけられる。 「そう、ですね……」 「今日休めば三連休だから、きっとみんな計画立てて遠出してるのかもしれないね」 「三連休……」  本当だ。金曜日だもんな。 「金曜日なのに……」 「松澤先生?」 「あ、いえ、な、なんでもないです」  そう答えながら、僕は動揺を押し殺していた。男性教諭が自席に戻ったところで、はあ、とため息をつく。  そうだ、金曜日だ。土日は学校は休み。だから、五藤くん達二年生は三連休になる。  でも、もし五藤くんが誘ってくれていたら、僕は今日、有休を取ったのに。  平日なら三樹くんは保育園だから、二人きりでデートとか、できたのに。  そうだよ。二人きりなら、帰りに僕の家に寄ってもらって人目を気にせずイチャイチャとか……。  その先の甘い光景までも想像してしまい、わーっ、と頭を振る。  危ない危ない、職員室ではだめだめ!  我に返り、はあっ、と息を吐き出した。なんだか重いため息になってしまった。  昨日の帰りはたまたま五藤くんと話せなかったけど、きっと夕方にでも五藤くんからラインが届くはず。うん。だから待っていよう。  僕は沈みかける気分を気力で奮い立たせ、机回りを整えた。  担当のクラスを持っていない僕は、たとえ二年生が休みでも、普段やり残した雑務とか、色々片付ける事があるから、時間はいくらでも潰せた。    昼休みは職員室のテラスではなく、カフェテリアで自作のサンドイッチを食べた。  二年生以外、知ってる生徒はいないけど、誰かサンドイッチを貰ってくれる人がいるかもしれない。  大きな窓の外は、風もなく、太陽の光が反射してキラキラしている。  十二月でも日中暖かい日は、テラス席を利用する生徒も数人いて、楽しそうに談笑している。

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