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だから用心しろって言ったのに 2
この時期に登校している三年生は少ないから、ほとんどは一年生だろう。半分ほど食べたところで、僕はぽけーっと生徒達を眺めた。
来年は、五藤くん達は三年生だ。五藤くんて、卒業後の進路とか、どうするつもりなんだろう。将来進みたい方向とかって、もう考えてるのかな。
僕が高校生の頃、将来は何になりたいとか夢とか、正直よくわからなかった。料理が好きだけど、それを職業にしたいかといえば、そこまでは考えられなかったし。
姉ちゃん達に相談してみたら、そんなのは大学に行ってから考えればいいんじゃないかと言われた。常に僕をおちょくる姉二人が珍しくまともな返答をしてくれたから、それはすとん、と僕の胸の中に入ったのだ。
強いて言えば教育実習生に憧れていたという理由で、教育学部のある大学を受験したのだ。
でも、今思えば教育系の大学に進学して結果的には正解だった。
もし、教育系の大学以外の一般の大学だったなら、一般的に卒業に必要な単位数に加えて、教職課程を履修しなくてはならないからだ。
根性が無いことに自信のある僕には、一年生から計画的に単位を修得しないといけないコースは、無理だったと思う。
五藤くんと、そんな話をしてみるのもいいかなあ。
でも、恋人なのにそんな話をするのって、嫌なものかな。どうなんだろう、わからない、担任でもないし。
お試しで、マモルくんかカジくんにそんな話を持ちかけてみようかな。
はあ、とため息をついていると、「あれ、つっくん?」と僕を呼ぶ声がした。
キョロキョロしてると、少し離れた席に座っていた男子が立ち上がり、僕に手を振っていた。
「あっ、スズキくん」
A組のスズキくんだった。僕を見てニッコリ笑った。
「珍しいね、つっくんがここで食べてるの……あ、そっか。二年生休みだもんね」
五藤くんのことを言われているような気がしてドキッとしたけど、他意はなさそうだ。
「スズキくんも二年生なのに、登校したの?」
僕が訊くと、スズキくんは教室よりリラックスした様子で言った。
「同好会の集まりで来たんだ。僕、次期部長だからね」
「へえ、そうなんだ」
スズキくんは、カフェテリア内をぐるりと見回してから言った。
「ほんとに今日は、あの背の高い怖そうな彼は来てないの?」
僕が首を縦に振ると、スズキくんは「ここ、座ってもいい?」と聞いて来た。僕はまた頷きながら、同好会のお友達はいいのかなと、視線をそっちに向けた。
それに気づいたのか、スズキくんは「大丈夫だよ。もう終わって、暇な連中だけ残ってお茶飲んでただけだから」と言った。カフェテリアでは、食事やデザートを注文しなくても、水や緑茶なら無料で飲めるのだ。
「お茶」と聞いて僕はあっ、と思い出し、保冷バックにゴソゴソと手を突っ込んだ。
「あのさスズキくん、昼ご飯まだ食べてなかったりする?」
スズキくんは頷くと、人のよさそうな顔の眉毛を下げて、お腹の辺りをさすった。
「今月は金欠でさ、だからお茶だけ飲んでたんだよ」
「そしたらさ、このサンドイッチ引き取ってもらえない? 僕の手作りなんだけど」
「えっ、つっくんの手作りなの?」
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