60 / 76
だから用心しろって言ったのに 3
スズキくんは目を丸くしている。
「うん。手作りに抵抗がなかったら、貰ってくれないかな。今日、余分に持ってきちゃったから」
「えっ、嬉しいな。喜んで食べるよ!」
「よかった~」
「――そっか、今日彼が休みだもんね」
あれ? もしかしてスズキくん、僕と五藤くんがそういう関係だってこと、知ってる……? 二人でランチしてるのは一部の生徒にはバレてるようだけど、まさか、それだけで「二人が恋人同士」だなんて、普通は誰も思わないよね?
僕は密かにドキドキしながら、スズキくんにサンドイッチの入った紙袋を手渡した。
「結構量が多いから、お友達にも分けてあげて」
「うん、ありがとう」
スズキくんは、受け取った紙袋をそっと抱きしめるように持つと「ねえ、つっくん」と俯いて言った。
どうしたんだろうと、僕がスズキくんの次の言葉を待っていると、スズキくんは意を決するように顔を上げた。
「あのさ、その……。僕、気になる人がいるんだよね」
「えっ……」
まさかの、生徒からの恋の相談? えっ、嬉しい。
「そうなんだ!」
「しー、声が大きいよ」
「あっ、ごめん……」
僕はぱっと手の平で口を覆った。
スズキくんの頬がほんのり赤くなっている。スズキくんは声を落として言った。
「中学からの腐れ縁の友達で、一番仲がいいんだけど、高校上がってからすごく気になるようになっちゃってさ」
「へえ……」
頬を染めてゆっくり話すスズキくんは、なんだかすごく、可愛い。
「周りに可愛い女の子たくさんいるのに、気になったりドキドキするのは、そいつだけで……。それって、変だと思う?」
僕はじっとスズキくんの顔をガン見しちゃっていた。
だって、その好きな人の話をする彼が凄く可愛くて、本当にその人に恋してるんだなあって思えるんだもん。
五藤くんは「スズキくんに用心しろ」みたいなこと言ってたけど、違ったよ。スズキくんは僕に恋の相談をしたかったんだ!
五藤くんてば、心配しすぎなんだから~。でも、そんなところも大好きなんだけど~。えへへへ。
「つっくん……?」
僕が一人で悦に入ってによによしていたら、スズキくんはほっぺをピンク色にしたまま、僕を見ていた。
「あっ、全然! ちっとも変じゃないよ! 素敵なことだよスズキくん!」
スズキくんの顔がぱあっと明るくなる。僕は声のボリュームを少し落として言った。
「あのね、僕も……好きな人は男の人だから」
つい言ってしまってから、大丈夫かなと不安になったけど、「あ、やっぱりそうなんだね」と、スズキくんはやけに納得したような顔をした。
「あっ、でもでもっ、これは内緒だからね!」
「ふふ、わかってるよ、つっくん。僕のも内緒だよ」
「もちろん!」
僕は嬉しくて、しばらく二人でおしゃべりした。五藤くんの名前こそ出さなかったけど、なんだかスズキくんはわかってるみたいだ。
でも楽しいなあ、これって、恋バナだよね。ガールズトーク……じゃなくてボーイズトークだよね。
でも、スズキくんの好きな彼がどんな子なのか、ちょっと気になるかも。スズキくんはどちらかといえば線が細めで可愛いタイプだから、彼は男っぽい感じの子だったりするのかな、それとも可愛い系なのかな。
ともだちにシェアしよう!