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だから用心しろって言ったのに 3

 スズキくんは目を丸くしている。 「うん。手作りに抵抗がなかったら、貰ってくれないかな。今日、余分に持ってきちゃったから」 「えっ、嬉しいな。喜んで食べるよ!」 「よかった~」 「――そっか、今日彼が休みだもんね」  あれ? もしかしてスズキくん、僕と五藤くんがそういう関係だってこと、知ってる……? 二人でランチしてるのは一部の生徒にはバレてるようだけど、まさか、それだけで「二人が恋人同士」だなんて、普通は誰も思わないよね?  僕は密かにドキドキしながら、スズキくんにサンドイッチの入った紙袋を手渡した。 「結構量が多いから、お友達にも分けてあげて」 「うん、ありがとう」  スズキくんは、受け取った紙袋をそっと抱きしめるように持つと「ねえ、つっくん」と俯いて言った。  どうしたんだろうと、僕がスズキくんの次の言葉を待っていると、スズキくんは意を決するように顔を上げた。 「あのさ、その……。僕、気になる人がいるんだよね」 「えっ……」  まさかの、生徒からの恋の相談? えっ、嬉しい。 「そうなんだ!」 「しー、声が大きいよ」 「あっ、ごめん……」  僕はぱっと手の平で口を覆った。  スズキくんの頬がほんのり赤くなっている。スズキくんは声を落として言った。 「中学からの腐れ縁の友達で、一番仲がいいんだけど、高校上がってからすごく気になるようになっちゃってさ」 「へえ……」  頬を染めてゆっくり話すスズキくんは、なんだかすごく、可愛い。 「周りに可愛い女の子たくさんいるのに、気になったりドキドキするのは、そいつだけで……。それって、変だと思う?」 僕はじっとスズキくんの顔をガン見しちゃっていた。  だって、その好きな人の話をする彼が凄く可愛くて、本当にその人に恋してるんだなあって思えるんだもん。  五藤くんは「スズキくんに用心しろ」みたいなこと言ってたけど、違ったよ。スズキくんは僕に恋の相談をしたかったんだ!  五藤くんてば、心配しすぎなんだから~。でも、そんなところも大好きなんだけど~。えへへへ。 「つっくん……?」  僕が一人で悦に入ってによによしていたら、スズキくんはほっぺをピンク色にしたまま、僕を見ていた。 「あっ、全然! ちっとも変じゃないよ! 素敵なことだよスズキくん!」  スズキくんの顔がぱあっと明るくなる。僕は声のボリュームを少し落として言った。 「あのね、僕も……好きな人は男の人だから」  つい言ってしまってから、大丈夫かなと不安になったけど、「あ、やっぱりそうなんだね」と、スズキくんはやけに納得したような顔をした。 「あっ、でもでもっ、これは内緒だからね!」 「ふふ、わかってるよ、つっくん。僕のも内緒だよ」 「もちろん!」  僕は嬉しくて、しばらく二人でおしゃべりした。五藤くんの名前こそ出さなかったけど、なんだかスズキくんはわかってるみたいだ。    でも楽しいなあ、これって、恋バナだよね。ガールズトーク……じゃなくてボーイズトークだよね。  でも、スズキくんの好きな彼がどんな子なのか、ちょっと気になるかも。スズキくんはどちらかといえば線が細めで可愛いタイプだから、彼は男っぽい感じの子だったりするのかな、それとも可愛い系なのかな。

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