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だから用心しろって言ったのに 4
少しなら聞いてもいいかなと思い、僕はスズキくんに聞いてみた。
「ねえねえ、その彼は同好会の部員なの?」
「ううん、違うよ。あいつは――、僕と違ってオタクっぽいとこ全然ないんだ。運動部で……サッカー部」
「へえ~、そうなんだぁ」
スズキくんはそう言ってから、ちらっとグラウンドに視線を流した。
うちの学校のサッカー部は花形だ。結構強いしかっこいい男子が多いから、女子生徒達がキャーキャー騒いでいるのをよく見かける。(私服もお洒落だし)
こういっちゃ失礼かもしれないけど、一見、スズキくんとは繋がりがなさそうな感じがするのに。
スポーツは何でも得意な五藤くんが、もしサッカー部所属だったら超モテモテだっただろうなあ。(帰宅部でも充分モテモテみたいだけど、なにせクールだから女子はみんな遠巻きに見てるらしい)(って、カジくんが教えてくれた)
グラウンドを見つめるスズキくんの目が、少し寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。運動部員の多くは登校しているから、その彼がいるのかもしれない。
そうだよな、同姓同士の恋が成就する可能性は低いんだ。本当に、僕が五藤くんと付き合えてることは奇跡に近いんだ。
さすがにスズキくんは、僕と五藤くんが既に恋人同士だなんて気づいていないんだろう。全部話したい衝動に駆られるけど、自慢してるみたいに聞こえたら嫌だからやめておこう。
それに五藤くんの許可もなく勝手に打ち明けないほうがいい。
なんだか、すごく五藤くんに会いたくなってきた……
スズキくんはサンドイッチの入った袋を覗き込んだ。
「わ、美味しそう! みんな喜ぶよ」
「僕も食べてもらえれば助かるよ」
スズキくんは、紙袋の口を閉じると俯いた。
「話し聞いてもらえて、よかった。――また、話してもいい?」
「もちろんだよ!」
「ありがとう、つっくん」
嬉しそうに言い、スズキくんは友達のいるテーブルへ戻っていった。
なんだか、胸がぽかぽかしてきた。最近は忘れていたけれど、数ヶ月前の僕が今の状況を知ったら、間違いなくひっくり返るだろうな、と思う。
全部、五藤くんのおかげだ。
彼は、自分のお父さんのような厳格な教師が大嫌いだから最初は怖かったけど(凄く)、それにはちゃんと理由があった。いろんな偶然が重なって五藤くんと仲良くなれて、それだけでも充分嬉しかったのに、恋人にもなれた。
僕は、ポケットから携帯を取り出した。メッセージアプリを開ける。
ぐるぐる考えすぎて、送れなかったメッセージを素直に書いて、送信した。
『五藤くん、会いたいな』
――わ……こんな感じのメッセ送ったの始めてかも!
言葉で伝えるよりも、なんだかこそばゆい。「エッチなことしたい」とか本人を前に言っちゃってるくせに、バランスの悪い自分が笑える。
でもそれは、僕が大人だからだ。
もし、僕が五藤くんと同い年の十七歳だったら、とてもじゃないけと友達になんかなれなかっただろう。よくてパシリって感じかな。意外にカジくんとマモルくんなら仲良くなれたかもしれないけど。
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