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だから用心しろって言ったのに 6
ずいっと更に近づいたトヨダくんの顔を見て、あ、と思い出した。A組のスズキくんの、斜め後ろの席の生徒だ。
「びっくりしたよ~、突然近くで声が聞こえたから」
「あ、ごめんね」
目の前に立つと、トヨダくんは僕より十センチほど背が高かった。
「忘れ物を取りに来ただけだから、運ぶ本はないんだよ。だから大丈夫、ありがとう」
「そうなんだ、そっか……」
なぜか残念そうなトヨダくんの向こう側にドアがある。彼が後退してくれないと、進めない。
「もう戻らなくちゃ、だから」
そっちに行ってくれる? と言おうとして出口を指差した僕の手首を、トヨダくんが掴んだ。
「トヨダくん?」
「ねえつっくん、俺ね」
トヨダくんは僕の方へ一歩近づいた。狭い場所で接近されて、僕は咄嗟に身を引いた。
「トヨダくん、こっちじゃなくて、そっちの出口に進もう? 明るい場所で話そうよ、ここだと暗いしよく見えないし」
「見えない方がいい!」
大きな声に、僕の身体はビクッと硬直した。息がかかるほどの距離でそんな声を出されたら、驚くに決まってる。
「トヨダくん、あの」
「最近のつっくん変だよ。色んな人に愛想振りまいちゃってさ。前はあんなに孤高だったのに……」
「えっ、孤高? 僕が?」
「そうだよ! 凛としてて、周りに流されないで、かっこよかったのに!」
え~……、トヨダくんにはそんな風に見えてたの? ちょっと嬉しいけど。
「あはは、イメージ壊れちゃったかなあ。でも僕、すごく無理してたから」
「無理してたの?」
「うん……。僕、自分の理想の教師像を頑張って実現化しようとして……それで、情けないことにポキッと折れちゃったんだ。やっぱり無理が続くと、必ず後でそのしわ寄せが来るんだって実感したよ」
まあ、その張り詰めた糸を切ってくれたのは五藤くんだけど。
「そうなんだ……」
トヨダくんはシュンとしてしまった。彼が以前の僕を褒めてくれたのは嬉しいけど、やっぱり話すなら明るい場所がいい。
「ねえトヨダくん、一階の通路にベンチがあるじゃない? そこで話そうよ、ここは暗いし……」
掴まれたままの手首を少し引っ張るが、トヨダくんは緩めてくれない。
「俺、知ってたよ。つっくんが、本当は厳しい教師じゃないってこと」
「――え?」
掴まれた手首の力がきゅっと強くなった。
「佐尾先生といるとき、全然違ったし。それに、眼鏡の奥の顔が可愛いのも知ってた。学年全体に怖い教師だって伝わってたけど、俺らA組の授業はリラックスしてたし。つっくんが毎朝ゴミ拾いしてるのも、それをE組のやつらに邪魔されてたのも、知ってる。なのに……」
トヨダくんは、ほどんど顔がくっつきそうな距離まで詰めてくる。僕はその度じりじり後退して、出口から遠くなっていく。
「トヨダくん」
「さっき、スズキと仲よさそうに話してるの見て、頭に血が上ったけど、あいつは別にいいよ。見るからに草食系だし、俺より成績いいから許せる。でも――あのE組の、チャラチャラしたやつと仲良くなってるよね。なんで? この前なんか、つっくん嫌がってるのに無理やり担がれてたじゃん」
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