64 / 76
だから用心しろって言ったのに 7
あ―……あれを見られてたか。(てゆーか、生徒に注目されてたもんなあ)
「あのね、あれは嫌がってたんじゃなくて、恥ずかしくて」
「なんで? なんであんな、学校に何しに来てるかわからないようなやつと仲良くするんだよ! あいつなんか、つっくんの授業で居眠りしてるんだろ!」
それも知ってるんだ!
真っ当すぎて言い返せない。でも……。
きっとトヨダくんは、何か事情があって、この自由学園に来たんだろうな、というのはわかった。
「んー、なんでだろうね、僕も不思議。でもね、五藤くんてああ見えて、すごく面倒見がいいんだよ。年下だけどお兄ちゃんぽくてさ」
「つっくんが末っ子だから?」
なんでそれも知ってるの? 怖! ――まあ、いっか。
「それも、あるのかな。僕が無理して孤高の教師? のフリしてたとき、ひょんなことからそれが五藤くんにバレちゃってさ。それがきっかけで仲良くなったんだ。それからは、僕は教師のくせに、彼に色んなグチを聞いてもらってるんだよ」
「グチ?」
「うん」
「その役目、俺じゃダメ?」
トヨダくんの目は真剣だった。この暗くて陰気な場所のせいで、もしかしたらトヨダくんは危ない子なのかも、とか思っちゃったけど、きっとそうじゃない。純粋に、僕を心配してくれてるんだ。
ただ、他の生徒より強烈に。
「――ダメ。それは俺の役目だから」
「えっ」
「誰?」
この、声は……嘘でしょ。
「こんな暗い場所で何してんだよ、話なら、一階のベンチですれば?」
出口に、背の高い人物のシルエットが見えた。
「五藤くん!」
僕の頭に『キタ――――!!』って、でっかい文字がどどーんと浮かんだ。
――白馬に乗った王子様って、こんな感じで登場するのかも……いや、別にトヨダくんは悪者じゃないけどさ。
「おまえ、E組の……」
「あのさ、つっくんのお守りは大変だぞ。この人、二十四歳成人済みの大人のくせに、中身はまんま五歳児だから、おまえじゃ無理」
トヨダくんは、五藤くんの登場に一瞬怯んでいたけど、真っ直ぐに五藤くんを見返した。
「そんな、つっくんをバカにするような言い方やめろよ」
「トヨダく…」
「バカにしてないよ。大事にしてるけど? なあ、つっくん」
名前だけ、やけに優しく呼ばれて、じわって胸が熱くなる。それってズルいよ!
「うん……」
「それにさ。前からつっくんのこと見てたなら、なんで声かけなかったんだよ、あんなに無理してたのに」
「そ、それは」
「俺は、つっくんが無理してるの知って放っておけなくて、傍で支えたくなった。だからちょっかい出すし、絡むんだ。――おまえはずっと、ただ見てただけだろ」
「う……」
トヨダくんは黙ってしまった。いつのまにか、掴まれた手首は解放されていた。トヨダくんは出口へ向けて足を動かした。ああ、背中に哀愁を背負っている。
「トヨダくん、また話そうね、心配してくれてありがとう、嬉しかったよ」
振り向いたトヨダくんの目が、キラッと光って見えた。
ともだちにシェアしよう!