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好きだよ 1
ドアの閉まる重い音が響いたあと、倉庫内はしん、と静かになった。
少し離れた場所に立った五藤くんの顔はちょうど陰になっているから、表情は見えない。でも多分、笑ってない。
さっき、僕とトヨダくんの距離はほとんどゼロ距離だったのに、五藤くんとの僕の間隔は、五メートル以上離れている。
なんで離れてるんだろう。なんで、傍に来てくれないの?
「五藤くん……もしかして、僕に会いにきてくれたの……」
だって、授業がなくて二年生が休みなのに、帰宅部の五藤くんが登校する理由なんて、他にないと思う。
僕が『会いたい』ってメッセージ送ったから?
返事の代わりに五藤くんはすっと僕の傍まで来て、手首を掴んだ。そのままぐいぐい引っ張り、出口へ向かってずんずん歩いていく。
「わっ、ちょっと待って!」
引きずられるようにしながら、僕は狭い場所で足を動かす。五藤くんの手はすごく熱かった。
五藤くんは職員室の前まで僕を引っ張って行くと、手を放した。
「帰り支度してこいよ。――待っててやるから」
五藤くんは、さっきの質問には、答えてくれていない。僕が五藤くんを見上げても、視線がちっとも合わなかった。
「うん、じゃあ、ちょっと待っててね」
「ああ、昇降口で待ってる」
僕が職員室に入るのを見届けると、五藤くんはふい、と背中を向けて廊下の向こうへスタスタ行ってしまった。
待っててくれるみたいだし、別に問題ないんだけど……。
五藤くん、なんか怒ってるみたいだった。それとも、僕に呆れてるのかな。だって、僕を捜しに来てくれたのに、(地下まで来たってことはそういうことだろう)態度がすごく素っ気ない。
そりゃ、「スズキくんには気をつけろ」みたいな忠告受けてたけど、実際はスズキくんじゃなくてトヨダくんだった。でも、そのトヨダくんも、別に僕に対して五藤くんが思ってるような変な意味じゃなくてくて、ただ心配してくれてたみたいだったし。暗い場所で怖い思いはしたけれど。
僕は、パパパッと帰り支度を済ませると、職員室を後にした。
「お先に失礼します!」
「お疲れ様~」
オレンジ色の夕日をバックに、五藤くんは昇降口の階段へ腰を下ろしていた。その大きい背中が、主人を待つ忠実な番犬のように見えて、胸がぎゅっとなった。(それを言ったら怒られそうだけど)
「五藤くん、おまたせ」
僕が呼びかけると、五藤くんは「おう」と一言だけ呟いて立ち上がった。
僕がじっと見上げると、五藤くんは僕の頭にポンと手を置いて、すぐに離した。ついやってしまった、というような仕草だった。
「家まで送ってく」
「えっ、ホントに?」
それはすごく嬉しいけど。
「ああ。――方向、こっちで合ってるか」
「うん、商店街を真っ直ぐ」
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