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好きだよ 2

 なんだか不思議だった。学校から僕のアパートまでの道を、こうして五藤くんと歩いているなんて。  でも、会話はない。五藤くんはどちらかといえば寡黙なタイプだし、だから、いつもなら僕が一人でしゃべって、それで五藤くんが相槌を打つんだけど。でも今は僕が黙ってるから、沈黙が続いている。  ザッザッ、という二人分の足音だけが、続く。  そういえば五藤くんて、僕のアパートに行きたいとか、言ったことないよな。ふつう、付き合ってたら二人きりになれる場所に行きたくなるんじゃないの? 僕が学校の近くで一人暮らししてるの知ってるんだし。――なんでだろう。  昼休みのキスだけで、満足できてたから?  えっ、でも前に「十代の性欲を舐めるな」みたいなこと言ってたから、五藤くんだってそうなんだよね? でも……僕とはエッチなことしないって宣言してた。  僕はハッと閃いた。    恋人同士だと思ってたのは僕だけで、キス止まりの、それだけの関係だったってこと?!  よく考えれば僕達は男同士だ。いくら僕の顔が可愛くて構い倒したくて、庇護欲をそそられて髪がふわふわでも、(それは否定しない)現実は「童顔で可愛いだけの二十四歳の男」だ。  僕の頭を、ガーン! と、鈍器で殴られたような衝撃が襲った。  そうだよ、別に五藤くんはゲイじゃないし、(僕もだけど)以前は大人っぽくて綺麗な塩谷エリナって女の子と付き合っていたわけだし。わざわざ年上の男と付き合うなんて、おかしい。  僕とは……責任感じて、仲良くしてくれただけなんじゃ……。  最初は「おまえは三樹と同じ括りだ」って言ってたもんな。家で三樹くんに癒されてるから、学校では僕を構って癒されてたのかな。  僕、浮かれまくって、そんなことにも気づけなかった。大人なのに、情けない。  僕の足が止まってしまったので、五藤くんも立ち止まる。 「おい、止まるなよ」 「そっかあ……」 「は?」  僕の呟きがよく聞こえなかったのか、五藤くんは耳を僕に傾けた。 「五藤くん、僕もう大丈夫だからここでいいよ」  僕は勇気を振り絞って言った。だって、家まで送ってもらったら甘えたくなってしまう。すがり付いて我儘を言いたくなってしまうから、だめだ。 「送るって言ってんだろ」  顔を上げると、五藤くんの顔は怒ってるようにムスッとしていた。  そりゃそうだよね。癒されたいから僕と一緒にいるのに、僕が忠告を守らずさっきみたいなことになったから、面倒になるよね。その気持ちわかるよ、だって、僕は大人だから。 「さっきは、ありがとう。五藤くんが来てくれて助かったよ。これからも、五藤くんに言われたことは気をつけるようにする。僕は大丈夫だから、ここで帰って」 「何言ってんだよ……」  五藤くんの表情が、不機嫌から困惑に変わっていく。 「五藤くん怒ってるでしょ、――僕、不機嫌な人に送ってほしくないもん」 「なんだと?」  五藤くんの目が見開かれ、怒ってるような悲しいような表情になる。

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