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好きだよ 4
「五藤くんは家で三樹くんの面倒見たり、抱っこしたり、ほっぺにちゅーしたりしてるよね。それを学校でもしたいから、僕に構ってくれるんでしょ?」
ほっぺにちゅーの延長で、何回かエロいキスもしたけど。でもそれはきっと五藤くんの気まぐれで。
「はああ?」
五藤くんの口がアホみたいに上下に伸びた。
怒っているというより、心底呆れているような表情だ。僕はカチンときた。もうこの際、自分が大人だとか教師だとか関係なかった。思ってることを全部言ってしまおうと思った。今日が金曜日で、インターバルが二日間あることも、拍車をかけた。
「だから! 僕は三樹くんの代わりなんでしょ! 五藤くんは家で三樹くんに触って癒されるから、学校でも癒されたかったんでしょ! だから、僕に触るんだよね。ってことは僕達は、ただ仲のいい友達の関係だよね! なら、そんな風に彼氏みたいな態度とらないでよ、勘違いしちゃうじゃん!」
てゆうか、完全に勘違いしてたけどさ。
五藤くんは顔色を失っている。
ショックを受けてるように見えるけど、多分それは僕の気のせい。うん、気のせいだ。
「じゃあね、さよなら。また月曜日」
僕は踵を返し、自分のアパート目指してずんずん歩いた。もう曲がる道はないから、真っ直ぐ歩くしかない。五藤くんが気になったけど、振り返らず進んだ。
五、六十メートルくらい進んだ先に、僕のアパートはある。
僕の部屋は、二階建てのアパートの一階。六畳二間に三畳のキッチン付きの2DK。一人暮らしには充分な広さだ。
キッチンのガスコンロが二口で、料理好きの僕にはありがたい物件だ。東京に近くて便利だし、地方故に家賃が安い。六畳間は二部屋とも洋室で、収納も充実している。
「あ、そうだ。お米を研がないと……」
僕はいつもお米を炊くのに土鍋を使っている。炊飯器ならタイマーをセットできるけど、土鍋はそうはいかない。だからいつも、朝に米を研いで水を投入済みにしておく。――のだが、今朝はその作業ををうっかり忘れてしまった。
「五藤くんのせいで忘れちゃったよ、もう……」
帰宅してすぐ火をつければ、着替えたり作り置きのおかずや味噌汁を温めたり、他の事をしている間にご飯が炊ける。炊きたての土鍋ご飯は格別なのだ。
僕は土釜を取り出した。
「へえ、中は壁とか綺麗で結構新しいんだな。リフォームしてんのか」
「わあ――――っっ!!」
「あ、米は多めに炊けよ。俺も食ってく」
「五藤くんっ!」
五藤くんはちゃっかり靴を脱いで上がりこんでいた。
「おまえひどくない? 振り向きもせずに行っちゃうし、――切り替え早すぎだろ。ホントに俺が着いてきてるか気付かなかったのかよ」
「え……」
五藤くんにしては珍しく、いじけたような声色だった。いつも余裕かましてる五藤くんらしくない。
「だって……」
切り替えないと、こんな風に平気で立っていられない。僕だけ勝手に舞い上がって、五藤くんと恋人になったつもりでいたんだから。
「いいよね、五藤くんは若いから……」
僕は手だけは黙々と動かしながら言った。
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