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好きだよ 6

 頭がぼーっとしてくる。体中の全神経が口の中に集中している感じだ。立っているのすら辛くなってくる。  膝から下の感覚が麻痺してきて、かくん、と身体が落ちそうになった。 「っと、危ね」  僕の身体を支えて引っ張り上げた五藤くんは、膝の下に手を差し入れた。 「わっ!」  いきなりの浮遊感に声を上げる。思わず五藤くんにしがみつくと、互いの顔がすごく近くにあった。これって、もしかしなくても「お姫様抱っこ」だ。 「エロい顔してんな。――気持ちよかった?」 「そ、そんなの……」  顔を覗き込まれ、しかもその言い方が優しくて照れくさくて、つい顔を逸らしてしまう。 「こら、つっくん。こっち見ろ」 「ん……」  僕はどう答えたらいいのかわからなくて、素っ気無い返事しかできなかった。なのに、五藤くんはご機嫌だ。僕がそろそろと顔を戻すと、変わらず優しい眼差しとぶつかった。五藤くんのそんな目は、心臓に悪い。 「寝室は奥の部屋?」 「うん……えっ?」  五藤くんは僕を抱きかかえたまま、リビングまで進み、その奥の部屋の引き戸を開けた。少し開けた後、足を戸の間に入れてスパン! と勢いよく全開にした。 「あ、やべ、音響いたかな」と言いつつ僕がいつも寝起きしているシングル ベッドに僕をそっと下ろした。 「もっと乙女チックな部屋を想像してたけど、全然普通の部屋だな」  五藤くんが、僕の上に圧し掛かりながら言った。 「何それ、乙女チックって」 「ぬいぐるみとか沢山飾ってるのかと思ってた」 「ぬいぐるみ?」  僕は自分の部屋を見回した。  寝室は壁も天井も白、クローゼットの扉やドアの建具はクリーム色のごくシンプルな洋室だ。ベッドの横に小さなチェスト。足元には、通勤用のスーツやワイシャツだけを掛ける小ぶりなハンガーラックが一つ。  家具らしいものはそれだけだ。ぬいぐるみは一つもない。あるとしたら、ストラップ付きの小物くらい。  南側に腰高窓、濃いブルーのカーテン。今朝、朝日を入れるために開けたから、半分だけレースのカーテンになっている。まだ外が明るいから、室内も充分明るい。 「なにのん気によそ見してんだよ。これから何するかわかってんのか」 「へっ」  五藤くんはウールのカーディガンを脱いで、Tシャツ姿になった。理想的な筋肉の付き方をしている腕が視界に入る。かっこいい細マッチョって感じだ。五藤くんと仲良くなってから、まだ夏を迎えていないから半袖姿の彼を見るのは新鮮だった。  こんな至近距離で、しかも自分の寝室。二人きり。五藤くんが真っ直ぐ僕を見つめている。 「やけにおとなしいじゃん。もしかして、ビビッてんのか? 散々俺を煽ってきたくせに」 「だ、だって」  五藤くんがかっこよすぎて、その五藤くんに今から何されちゃうのかって、想像しただけでご飯三杯はいけそう……。って、そこで思い出した。 「あ、お米」  土鍋に火を入れてなかった。でも、この状況でコンロの火を付けっぱなしにはできない。炊飯器ならいいけど。 「今は米よりおまえが食べたい」

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