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エピローグ
軽快なメロディに引っ張られ目を開けた。わずかに開いたブルーのカーテンから朝日が差し込んでいる。
「まだ六時台かよ……」
いつものアラームをオフに切り換えるのを忘れていたのだ。今日は平日だが、開校記念日で学校は休み。この時間なら、まだ惰眠を貪れる。
「んー……」
腕の中に納まりスヤスヤ寝息を立てていた恋人が、わずかに身じろぎする。胎児のように丸くなっている姿が可愛い。
まだ寝てていいぞという合図のつもりで、ふわふわの猫っ毛を撫でた。
「んー、今何時」
「六時半。もう少し寝てようぜ」
「あれ、五藤くん起きてたんだ」
綴はもぞもぞと振り返り、俺の顔を見てふにゃりと笑んだ。
あ、ヤバい。
起きたての身体にはよろしくない笑顔だ。身体というか一部分だが。
じゃあもう少しゴロゴロしよっかな~、と呟きながら綴はもぞもぞ身体を反転すると、俺の胸に顔を埋めた。猫のような手つきで目を擦り、口元を緩めている。
笑いを堪えているような表情だが、目元は赤く、夕べ散々啼かせた名残が首から下に残っているはずだ。綴の肌は痕を付けやすいから、ついつい調子に乗って吸い付いた記憶がある。朱色の花びらが点々と散った素肌は目の毒だ。
それにしても……なんだか余裕じゃねえか。と思った。
朝なのだから、自然現象で俺の分身は硬くなっている。初めて綴の部屋に泊まった日の翌朝、俺の硬い分身にびびった綴が、ベッドから転げ落ちたのが遠い昔のようだ。
そう、その日の、前日の晩が俺たちが初めて繋がった記念日だった。いや、記念日って……。
自然に出てきた単語だが、自分が相当浮かれているのを実感して、照れくさくなった。
すぐ顔の下にあるふわふわの猫っ毛に、チュッと音を立ててキスをした。「んふふ~」とくぐもった声が胸で響いた。
「僕も大好き……」
「ん?」
半分起きているのかと思ったが、規則的な呼吸が聞こえてくる。寝言かよ。
「俺も……好きだぞ」
聞こえていないのを承知で言ってみる。綴が目を覚ましたら、改めて伝えようと思った。
今日は弟の三樹を迎えに俺の家に寄ってから、三人で映画を見にいく予定だ。モンスターがうじゃうじゃ出てくる国民的アニメ映画で、俺抜きで綴と三樹の二人で計画を立ててしまったらしい。
三樹は、『つっくんと話すのは、仲良しの友達と同じくらい楽しい』と言っていたし、綴は『五藤くんが三樹くんを可愛がってるのわかる! 可愛いよね~。 僕ともすごく気が合うし』って、五歳と気が合う高校教師ってどうなんだよ……。
そう思いつつ、俺は二人の関係を傍で見て面白がっている。
まあ、将来のことを考えたら、二人が仲良くしてくれるのは喜ばしいことだけど。
一度だけ居合わせた義母さんも、「えっ、先生なの? あんなにラブリーなのに?」と驚きつつも好印象だったようだ。外堀は埋めといたほうがいいに決まっている。
携帯のアラームを一時間後にセットしてから、改めて、平和な寝息を立てる、腕の中の体温に顔を摺り寄せた。
俺の口元も緩んでるな、と微かに感じながら、可愛い恋人と一緒に二度寝を貪ることにした。
了
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