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中学の三年間、牧野は広瀬のグループによって徹底的なイジメを受け続けていた。
途中不登校になったり転校するんじゃないかと思われていたが意外にもそんなことはなく、卒業まで牧野は広瀬達の都合の良い玩具だった。
だがやはり高校は広瀬と被らない所を選んだようで、牧野は県を越えた全寮制の学校に通うことになったと母親から聞かされたのをよく覚えている。
それに対して表面上は興味のないフリをしていたが、内心は俺に黙って遠くに行くなんてと、理不尽な怒りを広瀬は抱いたいた。
そうして牧野という存在がいなくなった広瀬の高校生活は何の面白みもなく過ぎていった。
時には彼女を作ったりもしたが、何故かすぐに気持ちが冷めてしまって三日も持ちはしなかった。
マンションの隣の部屋を見る度に募る、胸にぽっかりとした喪失感と蟠りが鬱陶しく、家に帰るのも億劫になった。
だから大学に上がった際に広瀬は一人暮らしを決めたのだ。
これで忘れられると思ったのだが、神様とやらは見ているらしい。
上京して広瀬が入学した大学に牧野も在籍していたのだ。
そして何の因果か、大学が生徒用に貸し出しているアパートの隣の部屋に牧野が暮らしていた。
「…あ、あの…広瀬くん…」
昔のことを思い出し、頬杖をつきながら膝を小刻みに揺らす広瀬に、オロオロしながら小さな声で牧野が声を掛けた。
牧野から声を掛けてくるなんてと少し驚いたが、それを表情に出さないように広瀬は眉間に皺を寄せしかめっ面を向けた。
「なんだよ」
「ひっ…え、えっと…」
広瀬の顔を見て短い悲鳴を上げる牧野、そんな些細な様子にもどんどん苛立ちが募る。
「ごもごも喋ってんじゃねーよ、ほんとキモイよなぁお前」
「…っ、ごめん…」
広瀬の口から流れるように出る嫌味な言葉に、牧野は再び少し俯いた。
さらりとした黒髪が揺れる。
中学の時は目を隠すように伸ばされていた前髪が、どんな心境の変化か今は眉の上まで綺麗に切り揃えられていた。
だから中学の時には決して見えなかった牧野の表情が、今はありありと見えるようになった。
形のいい眉が困ったように下がり、傷ついたような表情を浮かべている。
中学の時もこいつはこんな顔をしていたのだろうかと広瀬は思った。
悪口を言われた時も、陳腐な嫌がらせをされた時も、広瀬の前で牧野はいつも辛そうな顔をしていたのだろうか。
そんな想像をして、広瀬の胸が何故かほんの少し痛んだ。
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