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「ちゅ…んむ、…ぁ」
濡れた音を立てて、唐突に広瀬の唇が牧野から離れた。
つぅ、とどちらのともわからない涎が糸を引く。
広瀬は身体を起こすと、牧野の両手を縛る拘束具に手を掛けた。
「…っなんで…?」
息を切らしながら、牧野は広瀬に問い掛けた。
「俺のこと嫌いなのに、なんでキスなんか、するんだよぉ…っ」
これも嫌がらせの一環なのかと、牧野は涙ぐむ。
自分の気持ちを知っていて恋人にするようなキスをするなんて、それ以外に答えが見つからなかった。
じゃないと先程まで嫌悪していた人間にキスなんて出来るものか。
さぞ自分の反応を見て楽しんでいるのだろうと怒りが込み上げてくる。
そこまで自分のことが嫌いなのかと牧野は広瀬を睨みつけた。
「…嫌いなヤツに、普通こんなことしないだろ…」
だが、牧野の予想を裏切って広瀬は複雑そうな表情を浮かべていた。
てっきり笑っているものだと予想していたので、牧野は不意をつかれてしまった。
「ああくそ!これどうやって取るんだよっ」
拘束具に手こずっている広瀬を見上げながら、牧野は広瀬の言葉の意味を考えていた。
嫌いなやつにこんなことしない、つまり自分は広瀬に嫌われていないということで。
それはつまり……。
「…広瀬君は、俺のこと気持ち悪くないの…?」
確認するように、恐る恐る問い掛ける。
広瀬はピタリと手を止めると牧野の目を見た。
「…気持ち悪くねぇよ…」
「…俺は、同性の、君のことが好きなんだよ…?嫌じゃ、ないの…?…広瀬君は、俺のこと、どう思ってるの?」
広瀬は一度目を伏せ、それから再度牧野の目を見据える。
「正直、頭ぐちゃぐちゃでわかんねーよ…。お前に酷い事したのは俺なのに、それなのにお前は俺のことが好きだとか言いやがるし…」
「………」
「わかんねーけど…、だけど、お前にキスしたり、お前に触れたいって思ったりすることが好きってことなら、……俺は牧野のことが好きなのかもしれない…」
広瀬の言葉に、牧野は息を飲んだ。
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