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「はへ…?」 間抜けな声を上げて犬飼は目を覚ました。 自室のものとは違う、見慣れぬやけにピンク色した天井にパチパチと何度か瞬きを繰り返す。 「どこだここ…?」 ハッと覚醒し慌てて上体を起こして周囲を確認するが、やはりどう見ても自室ではない。 一面を淡いピンク色の壁紙に彩られ、桃色が滲む照明が仄暗い室内を怪しく照らす。 その場所は、一目でいかがわしい場所とわかるような独特の雰囲気が溢れ出ていた。 一体ここはどこなのか? 混乱し、冷や汗がこめかみを伝う。 「…?」 ふと近くに人の気配を感じそちらに顔を向けた。 「!…ね、猫宮先輩…っ?」 すると犬飼が眠っていたすぐ隣で、犬飼のアルバイト先の先輩である猫宮がすうすうと寝息をたて眠っていた。 猫のように丸まって眠るその姿をついついぽけーと眺めてしまう。 それもその筈、犬飼は猫宮のことが好きなのだ。 それは優しい先輩に対する親愛の気持ちなどではなく、立派な恋愛感情だった。 人生初のアルバイトで四苦八苦する犬飼に気さくに声を掛けてくれたのも、優しく一から指導をしてくれたのも、失敗して落ち込んだ時に慰めてくれたのも猫宮だった。 自分より三つ上の、美人でふんわりと微笑む笑顔が可愛い憧れの先輩。 初めはいい人だなと思っていただけだったが、接する内にいつの間にか好きになっていた。 なんならもう、最近は猫宮に会いにバイトへ行っているようなものだ。 そんな犬飼にとって、想い過ぎて夜も眠れない存在の猫宮がすぐ隣で眠っているというこの状況は、慌てふためくのに相応しいものだった。 確かに無防備なあどけない寝顔を見れたことは嬉しく、目に焼き付けようと思わずガン見してしまう程だ。 だが、犬飼が意識を手放す前の記憶では猫宮と一緒に眠ったというそんな犬飼にとって都合のいい幻想みたいな事実はなくて、いつものように自室で眠った筈だったのに、この状況は一体どういうことなのだろうか。 「それに、なんなんだこの部屋…?」 見渡す限りピンク一色な内装に同じ色をした大きなベッド、そして見える範囲にある家具もやはりピンク色で揃えられている。 品性の欠片もないこの空間はまさしく、 「…ラブホ…?」

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