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「駄目だ…どこにも出口がない」 猫宮と手分けして部屋の探索を行う犬飼。 主に出口となりそうな窓や扉を探すが、不思議なことに部屋のどこにもそれらは存在していなかった。 「マジか…」 落胆して肩を落とす。 こんな出口のない部屋に閉じ込められるなんて、それも猫宮と二人きり、これは都合の良い夢なのだろうか。 「いひゃい…」 徐に自身の頬を捻ると確かに鈍い痛みを感じて、夢ではないことを確信した。 ということはだ、今自分はこの大きなベッドの他にはなにもない全面下品なピンク色に彩られたこの如何わしい部屋に、ひそかに想いを寄せている猫宮先輩と二人きりということなのか? と冷静を装って推測した事実に、犬飼はぼっと音がするんじゃないかというぐらい顔を赤面させる。 「(いやいやいや落ち着け俺!何考えてるんんだこの非常事態に!明らかに拉致誘拐されてるのに先輩と一緒で嬉しいとかあまつさえ先輩のパジャマ姿見れてラッキーとか考えてないぞ!)」 一人で百面相しながら、よからぬ妄想を打ち消すように自身のヘッドランディングを決める。 「(うあああ猫宮先輩のパジャマ姿本当に可愛い!好き!って違うだろ!ああでも先輩好きです!)」 もはや探索することを止めて猫宮に熱い視線を送る犬飼。 意中の猫宮と言えば未だ懸命に部屋を脱出する手掛かりを探していて、今はチェストを調べているようだ。 「(ああ先輩パジャマ派だったんですね、チェック柄とか可愛いすぎるんだけど…というか少し髪濡れてないか?もしかして風呂上りだったのかな…いい匂いしそう…)」 近付いて胸いっぱいに匂いを嗅ぐ変態のような妄想をしながら猫宮を見つめ続けていると、不自然に猫宮の動きが止まっていることに気が付いた。 どうやらチェストの一番下の引き出しに何か入っているようだった。 「(どうしたんだろ?)あの、先輩?」 犬飼が声をかけた瞬間、猫宮の身体が大袈裟な程びくっ!と跳ねた。 慌てたようにこちらを振り返った猫宮はうっすらと顔を赤らめ、心なしか涙目である。 猫宮の勢いに驚き一瞬動きの止まった犬飼だったが、猫宮の表情を見て、その異変に気付くと声を荒げた。 「っど、どうしたんですか?!どこか痛いんですか!?」 「ち、ちがっ…こ、来ないで!!」 おろおろとしながら近付いてくる犬飼に、猫宮は必死になってそう叫んだ。

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