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「お、おお俺っ!もう一度出口探してきますね!」 気恥ずかしい空気に耐え切れず、犬飼は素早くベッドから降りると猫宮に背を向けて部屋の探索を始めた。 もう充分に探して出口が見つからないことは解っていたが、今はどうしても猫宮と距離を置きたかったのである。 「(ぐ~っっ!何調子乗ってあれこれ言っちゃってんだ俺!勢いで先輩のこと抱きしめちゃったし!)」 己の発言と行動を振り返り悶える犬飼、調べる為に這わせていた手で壁をガリガリと引っ掻く。 ああでも先輩いい匂いがしたな、それに抱きしめた時の感触が堪らなかったな…とまたもや状況をわきまえない自分自身に嫌気がさす。 いくら猫宮を想い続けていたとはいえ、普段からここまで大っぴらにしていた訳ではない。 ひた隠しにして、気付かれないように細心の注意を払っていた筈だ。 それなのに、今日の自分はおかしい。 「(絶対にこの部屋のせいだ…っここの雰囲気に呑まれてるんだ)」 一刻も早くここから脱出しないと、これ以上暴走して変な行動を取る前に。 そう決意したのと同時に、指先が明らかに壁とは違う何か別の感触を捉えた気がした。 「ん…?なんだこれ」 少し顔を上げ指先の方を見ると、壁の中にストロー程の大きさの穴が開いていることに気付いた。 指で触れて確認しながら、気になって顔を近付ける。 するとその瞬間を待っていたかのように、その穴からプシュッと霧状の物体が吹きかかった。 因みにこれが催淫スプレーなのだが、犬飼が知るはずもない。 「わっ!?」 突然のことにもろに顔面に浴びてしまい、勢い良く吸い込んで噎せた。 バニラに似た濃厚な甘い香りに頭がクラクラしてその場に座り込む。 「犬飼君っ?どうしたの大丈夫!?」 異変に気付いた猫宮が心配して駆け寄ると、激しく噎せる犬飼を介抱しようとその背中に手を添えた。 「ーーーッ!」 猫宮の手が触れた瞬間、背中から走った甘い痺れに犬飼は息を詰めた。 「っっぁ、ゲホッ…す、すとっぷ!」 咳き込みながら身体を捻って、慌てて猫宮の手を制止するように掴む。 「え…い、痛かった?」 眉を下げ不安そうな表情をする猫宮に少し心が痛みつつも、己の身に起こった異変を伝えようと口を開いた。

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