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「ぷはっ、待っ…む、ふぅ」
か弱い抵抗の言葉も全て飲み込むように、柔らかい唇にむしゃぶりつく。
正しいやり方などわからないので、ひたすらにちゅうちゅうと唇を吸い上げた。
それでも引っ付けたそこからじんじんと熱が広がってとても気持ちが良かった。
「(柔い…きもち…)」
うっとりしながら目の前の憧れの人をがっしりと抱きしめながら、夢中でキスをした。
あまりにも夢中で、無意識にしっかり反応している下半身を猫宮に擦りつけていることに犬飼は気が付いていない。
「(先輩、先輩、先輩…ッ)」
好きですと何度も心の中で伝える。
ふと目を開けて猫宮を見ると、その困惑の色を滲ませる瞳に夢現つだった頭が一気に冴えた。
ちゅぱっと音を立てて唇を離し、瞬時に飛び起きる。
「ぁ、あ、…え?、す、すいま、ふへぇっ?え、ええ!!?」
口元を押さえ今自分がしていたことを振り返り驚愕する。
素っ頓狂な声が出るばかりで、ちゃんとした言葉が話せない。
その内声も出なくなって、壊れた玩具のようにただ口をパクパクと動かすことしか出来なくなってしまった。
「(なんであんなこと!?お、俺なんで?わからないけど身体が勝手に…って違う!早く先輩に謝らないと…っでも絶対に嫌われた)」
どうしようどうしようと後悔ばかりが募り、ちゃんと猫宮の顔が見れなかった。
動揺に揺れる目に涙が滲む。
「………」
一方猫宮は大袈裟に狼狽える犬飼を、その身体の反応を食い入るように見つめていた。
そして何を思ったのか、小さく震える犬飼の手にそっと自分の手を添えた。
「犬飼君…」
名前を呼ばれ、犬飼は叱られた子供のようにビクッと身体を大きく震わせる。
恐る恐る視線を猫宮に移すと、熱の篭った瞳とバチリと目が合った。
「へ…?」
どことなく纏う雰囲気が変わった猫宮に戸惑う。
上気した頬に首筋に伝う汗、細められた目が真っ直ぐに犬飼を見つめて背筋がゾクリとした。
「せ、先輩…?」
「…犬飼君、俺ね、今の犬飼君の状態に心当たりがあるんだ…身体熱くてしかたないよね…でも大丈夫だよ…俺が何とかしてあげる…」
じりじりと距離を詰められている気がするのは、決して犬飼の思い過ごしなどではなかった。
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