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「……」 そんな犬飼の告白に猫宮は目をしぱしぱさせると、次の瞬間へにゃりと眉を下げ涙目になった。 咄嗟に両手で顔を隠したが、その身体は微かに震えている。 「せ、先輩っ…?」 突然泣き出した猫宮に驚き犬飼はあわあわとする。 もしかして自分が色々舐めたり入れたりとんでもないことをしたのが嫌だったのではないかと今になって思い青ざめた。 「す、すすすいませんんッ!お、俺…俺…っつ!」 媚薬のせいだとしても、付き合ってもいない相手の身体を好き勝手にしていいわけがない。 少し考えればわかることなのに、ああ俺は一番大事にしたい人になんてことを…と悲観に暮れる犬飼。 猫宮の涙に吊られて、犬飼も泣きそうだった。 「ちが…、犬飼君のせいじゃないよ…」 ぐすぐすと鼻を鳴らしながらパジャマの袖で目元を擦る猫宮。 擦り過ぎて赤くなっているそこが見ていてとても可哀想だった。 「ただ俺は…、君にそんな風に想われていいようなやつじゃないから…ッ」 そう言った側からまた大粒の涙がほろほろと溢れ出す。 「身体だって綺麗じゃない、こんな汚いやつ、犬飼君に相応しくない…っ」 溶けてしまいそうなぐらいにぐずぐずに濡れた瞳。 噛み締めた唇が猫宮の悲しみを表していた。 猫宮だって好きで身体を売ってきた訳ではない。 身勝手な人間に利用されて、身勝手に身体を弄ばれて。 気持ちとは裏腹に開発されては反応を示す自分の身体に戸惑い嫌悪する日々。 だけど逃げることも誰かに助けを求めることも出来なくて、全てが嫌になっていた。 自分も自分以外も誰も信じられないと思っていた。 それなのに。 「なのに君は…、犬飼君は俺のことを綺麗だとか、どんな俺でも好き、だって言ってくれて…っ」 この瞬間でさえも変わらず愛おしそうに猫宮を見つめるその眼差しに。 気遣うように頬を撫でるその手に。 「だから…こんな俺でも、君を好きになってもいいの…?」 猫宮は恋に落ちたのだ。

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