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「(天使だ…)」
心の底からそう思う。
夜空の星みたいにキラキラと輝く佐藤の微笑みは、まるでこの世全ての淀み穢れを浄化するようなもので、内に薄暗い闇を抱える塩谷には眩しく見えた。
時間が止まったように見惚れていると、その色素の薄い茶色の瞳に間抜けな自分の姿が映っているのに気付き、改めて佐藤との距離の近さを理解する。
「ふぎゃっ…!」
「えっ?!」
驚きの瞬発力で身を引いた塩谷がそのまま壁に頭を打ち付け、衝撃に踏まれた猫のような悲鳴を上げた。
あまりに一瞬の出来事に佐藤は大きく目を見開いた。
「大丈夫ですか?!」
「…だ、大丈夫…れす…(かっこ悪い恥ずかしい消えたい)」
塩谷は痛む後頭部を押さえながらぷるぷると震えた。
みっともなさに心配してくれる佐藤の顔も見れなかった。
「(何が吊り橋効果だ…親密になりたいだ…。そもそも俺と佐藤さんじゃ身分が違い過ぎるのに…強制的に二人っきりになれれば…なんて、告白する勇気もないのに…痴がましいんだよほんとに…)」
恥ずかしさと惨めさにネガティブな考えがぐるぐると駆け巡り胃の辺りを気持ち悪くする。
情けなさにじわっと涙が浮かぶが、ここで泣いたらもっと引かれてしまうと奥歯を噛み締め我慢した。
「(佐藤さんにだけは絶対に、嫌われたくない…っ)」
鈍臭い、間抜け、役立たず、今までの人生の中で何度も言われてきた誹謗中傷の数々。
時には会社の同僚に、時には学生時代のクラスメイトに、時には両親からさえも。
だけど佐藤だけは違う。
佐藤だけは塩谷のことを決して悪く言ったりはしなかった。
それどころか「どうやったらもっと塩谷さんと仲良くなれるのかなー」と家で言っていた程だ。
盗聴してたので知ってる。
そんなこと言われたのは初めてで、とても嬉しかった。
初めて人から認められた気がして、涙が出るぐらい嬉しくて、その日はおいおい泣いたものだ。
だから佐藤にさえ嫌われたら、塩谷はもう生きてけない。
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