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目覚めてから程なくして、塩谷と佐藤は部屋の探索を行った。
お互いに起きたら既にこの部屋にいたこと、この部屋にまったく見覚えがないことなどを話し合い、このままじっとしていてもどうにもならないとの佐藤の提案で部屋の中を調べることになったのだ。
広さ8畳程の部屋を探索するのにあまり時間は掛からず、あっという間に隅々まで調べ尽くした二人。
大した結果も得られず再びベッドに並んで腰掛けた。(塩谷は緊張して佐藤から不自然な距離を保っている)
「…出口どこにもないですね」
ぽつりと佐藤が呟いた。
佐藤が言う通り、この部屋にはこれまでと同様に出口となりそうな扉も窓の一つも存在はしない。
あるのはベッドだけで、それ以外はただただ白い壁に囲まれているだけだ。
いつもの明るさが感じられない佐藤の弱々しい声色に、この未知なる状況に不安を抱えていることがわかった。
それなのに塩谷を気遣って無理矢理笑みを浮かべる佐藤の優しさに、全てを知っている塩谷は胸が痛んだ。
「(ああ、佐藤さんはなんて優しいんだ…こんな俺の心配をしてくれるなんて…俺が貴方と少しでも親密になりたいと願ってしまったばっかりに…本当に可哀想。でも…あぁ、不安そうな表情の佐藤さんも可愛い…)」
佐藤へのときめきが止まらなく、にやけてしまいそうになるのを必死に我慢する塩谷。
佐藤と密室に二人きり、それだけのことが塩谷には幸福で堪らなかった。
だけど折角二人きりになれたのだから、もっとお近付きになりたい。
「だ、大丈夫ですよ…きっとそのうち出られます…」
勇気を出して佐藤に声を掛けた。
蚊の鳴くような声量だったが静かな部屋でははっきり聞こえたらしく、佐藤の表情がふっと綻んだ。
「…そうですよね、きっとすぐ出られますよね」
些か頼りないが自分を励まそうとしてくれた塩谷に佐藤は微笑みかける。
「ふふ、塩谷さんが一緒で良かった」
「え…?」
「だって俺一人だったら不安で怖くてきっと泣いちゃってましたもん、それに」
ふいに佐藤の言葉が途切れた。
なんだろうと気になって佐藤を見やると、少し言うのを迷っているみたいに視線を逸らして下唇を食んでいる。
だが意を決したようにこちらに視線を合わせると口を開いた。
その時だった。
ピーーーーーーーーーーーーーー!!
突如、耳を劈くような電子音が部屋中に鳴り響いた。
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