63 / 110

13

【MISSION:対象者凸は対象者凹を拘束して下さい】 いつの間に変わったのか、壁には新たな文章が浮かび上がっていた。 その内容に塩谷は絶句した。 対象者凸とはタグに凸の表記のある塩谷のことなのだろう、そして対象者凹は凹の表記のある佐藤のこと。 つまり塩谷が佐藤のことを拘束しろっと言っているのだこの壁は。 「拘束…この凸って、もしかして」 塩谷の後ろで同じく壁を見上げていた佐藤が確認するように塩谷を見た。 不安そうにこちらを見つめる瞳とかち合い、塩谷は目を逸らしてしまった。 その時ドサッっと背後のベッドの上に何かが落ちた音がした。 驚き二人は同時に振り返る。 警戒しながらゆっくりベッドに近付き、落ちてきた物を確認する。 「これ…手錠と…目隠し?」 ベッドの上にあったのはどぎついピンクのモフモフの毛が付いた手錠と、これまたピンク色の目隠しだった。 一体どこからこんな物がと上を見るが、そこには壁と同じ白い壁があるだけだった。 「塩谷さん…あの、凸って塩谷さんのことですよね…?」 佐藤に掛けられた言葉に塩谷は目を泳がせながら小さく頷いた。 「で、でも…こ、こんな、…俺が佐藤さんを拘束するだなんて…や、やりませんよ…!」 「早くやっちゃって下さい!!」 へ…と塩谷は固まった。 聞き間違いかと思ったが、「俺を拘束しちゃって下さい!」と間髪いれず佐藤が言ったので間違いではなさそうだ。 「さ、佐藤さん…っ?」 「お、俺こういう展開、この前見た映画に似てて…っえ、映画では密室に閉じ込められた人が命令に背いたら…ひぃぃ~っ!」 ガタガタと身体を震わせ怖がっている佐藤。 その言い分に、ああこの前友達に借りて見てた映画の話だなとストーカー塩谷はピンときた。 ホラー的なものが何より苦手な佐藤にとって、鑑賞してトラウマになった映画の状況とよく似たこの空間はもはや恐怖でしかなかったのだろう。 この部屋に申し込んだ塩谷でさえ、この部屋の異様さに不安を感じているのだから、佐藤の感じる恐怖は想像以上なのだろうと思う。 涙目の佐藤さん可愛いっ!と身悶える塩谷だったが、佐藤に手錠と目隠しを渡されて一瞬で興奮が冷めた。

ともだちにシェアしよう!