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そろりと目線だけ上げて佐藤の様子を伺う。
目隠しでイマイチ表情がわからないが、困惑しているのは雰囲気でわかった。
「あ…えっ?」
佐藤は短く声を漏らすと、それからすぐに押し黙ってしまった。
その様子がまるで塩谷のことを不審に思っているかのように見えて、塩谷の胃がきゅっと縮こまる。
ああ、目隠しをしてもらっていて良かったのかもしれない。
確実に嫌われただろうが、佐藤からの軽蔑の眼差しが見えない分ダメージも軽減されるだろうから。
「(これからは会社では極力顔を合わせないようにして、今まで以上に陰でひっそりと見守り続けていこう…)」
いやストーカーは続けるのかーいと思うだろうが、ストーキング行為は塩谷にとってもはや生き甲斐になっている為、そう易々と止められないのだ。
そんな諦めが悪いただただ気色悪い考えに遠い目をして耽ていると、佐藤が切羽詰まったような声を上げた。
「…っわ、かりました!」
「ですよねすいません!!……へ?」
勢いよく頭を下げた状態で動きを止め、塩谷は目を丸くした。
まさか了承されるとは思っていなかったのだ。
それどころか佐藤は、
「全然大丈夫なんでやっちゃって下さいっ!」
自ら胸を突き出し、すごく協力的であった。
これには塩谷の方が面食らってしまう。
「え、あ、い、…いいんですか?ああのその別にやましい気持ちとか全然ないんですけどね!一応確認です!ほら親しくもない他人に触られたくないって人が大半ですから!」
混乱してよくわからないことを口走る塩谷。
落ち着こうとして謎に何度も眼鏡のズレを直している。
「大丈夫です!だってミッションなんですよね?クリアしないとここから出られないし…それに場所が珍しいですけどマッサージなら男同士ですし全然問題ないです!」
だから何も気にせずマッサージお願いします、と再度背を反らせ胸を突き出す佐藤。
目隠しのせいでどんな表情をしているのかわからなかったが、よくよく見るとその耳が真っ赤に染まっているのに塩谷は気付いた。
ふるふると身体が小さく震えていて、それがまるで小動物を連想させ塩谷は切ない気持ちになった。
「佐藤さん…」
平気なフリをしているが、一大決心をしての行動なのだろう。
知らぬ関係ではないが、ただの会社の同僚に胸を揉まれるなんて、例え本当にマッサージだとしても同性同士だとしても、快く許可するのには相当の勇気が必要だっただろう。
ましてやこんなよくわからない状況に置かれてだ、塩谷なら絶対に拒否している。
「(…佐藤さんにならいいけど)」
ほわんほわんと立場が逆転して、申し訳なさそうに塩谷の胸を揉む佐藤を想像した。
んんん愛らしい!と変な声が出そうになって慌てて頭を振る。
今はそんなことを考えている場合じゃない。
こんなに佐藤が自分のことを信用してくれているのだ、塩谷もそれに応えなければ。
「すいません…絶対、痛くしないですから…」
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