69 / 110
19
「(な、なんでだ…?)」
あまりのことに興奮も治り頭が冷静になった。
ちゃんとミッション通り佐藤の胸に触れている、なのに何故カウントが止まってしまっているのだろうか。
わけがわからずもう一度壁の文字を確認してみると、そこで塩谷はハッとした。
「(もしかして…)」
ミッションには対象者凹の胸を愛撫して下さいと指示があった。
愛撫とはつまり、こんなマッサージみたいな触れ方じゃ駄目なのではないか…?
もっと服の上からじゃなく直接肌に触れ、性感帯を刺激して、相手を気持ちよくする。
そうしないと愛撫とは言えないのではないだろうか。
「…塩谷さん?」
急に動きの止まった塩谷に、どうしたのかと佐藤が名前を呼ぶ。
塩谷は佐藤の身体から両手を引くと、膝の上で拳を握った。
「あ、の…実は時間を知らせる時計みたいなのがあるんですけど、それが止まってしまってて、多分俺のやり方が違うからだと思うんですけど………」
「やり方?」
きょとんとする佐藤。
塩谷は狼狽えながら、少しの沈黙の後、意を決したように口を開いた。
「その…マッサージっていうのが、普通のマッサージではなくて、所謂あの…性的なものっぽくて…」
「…!」
塩谷の言葉に驚き、佐藤は声も出ないようだ。
佐藤の反応に罪悪感を抱きながら、少しでも安堵させようと塩谷は言葉を続けた。
「お、俺今から佐藤さんにとっても酷いことします…!さっきのよりたくさん身体触るし、嫌だと思うようなこともします…俺経験ないし、きっと下手くそですけど…でも、絶対に痛いことはしないです!そ、それに頑張って気持ち良くします…っ」
目隠しで見えないというのに塩谷は佐藤に向け頭を下げた。
「すいません…っ、きっと俺のことが気持ち悪くなると思います…でもここから出られたら、俺もう佐藤さんには近づかないですし、ここで起こったことも誰にも言いません!…だから、こんなこと言うのは可笑しいんですけど、安心して下さい…っ」
情けなくも震える声で言い切った。
そりゃ塩谷にだって欲はあるので、正直佐藤とエロいことをしたいかと聞かれれば声高々にしたい!と答えるだろう。
何度佐藤の痴態を想像して自分を慰めたことか。
中には盗聴時に致してしまったこともある。
だけどもこんな形で、こんな展開は望んでいなかった。
「(ああ本当に、あの時新聞の広告に目を輝かせた俺を殴ってやりたい)」
今更後悔しても遅いが、そう思わずにはいられなかった。
「……塩谷さん、」
一人後悔の念に押し潰されそうになっている塩谷に、佐藤が声を掛けた。
それは塩谷が想像していたのよりもずっと優しいもので、塩谷は恐る恐る顔を上げた。
「…気持ち悪くなんて思わないですよ」
全く悪意の込もっていない言葉に、塩谷はポカンと口を開けた。
「だって塩谷さんも仕方なくすることですし、それに……い、やじゃないですし…」
「え…?」
後半部分が溶けそうに小さい声で囁かれ残念ながら塩谷の耳には届かない。
聞き返す塩谷に佐藤は耳を真っ赤にして慌てふためいた。
「わー!!なんでも!なんでもないです!逆に可愛い女の子じゃなくて申し訳ないなーなんて…えへへ、俺の身体なんて触っても楽しくないだろうし…」
冗談だろうがそう自虐する佐藤に、それは異議ありと言わんばかりに塩谷が身を乗り出した。
「そんなこと!ないですよ!充分過ぎる程魅力的で、さっきもめちゃくちゃドキドキしました!」
「へ…っ?!」
「あ…」
一体何を言い合っているのだろうと二人揃って恥ずかしくなった。
ともだちにシェアしよう!