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「嘘だろ……」 愕然とし、目を丸くする塩谷。 手に取った玩具とベッドに横たわる佐藤を交互に見やり、冷や汗を流した。 【尚、今回のMISSIONは対象者凹には伝えないものとする】 付け足すように浮かんだ壁の文字、それは塩谷を悩ませることとなった。 「(伝えないって、佐藤さんにミッションの内容を話すなってことだよな…でも、こんなのどうやって伝えずにクリアするんだよ…!)」 まず伝えられないということは了承が取れないということ。 了承が取れないということは、無理矢理ことに運ぶしかない。 だが内容が内容だけに、一歩間違えれば強姦だ。 いや、もうどう転んでも今から塩谷が佐藤に行うのはそれだろう。 「(どうする…?どうしたらいい…っ?)」 焦りと動揺から呼吸が乱れる。 塩谷はもうどうすればいいのかわからなかった。 今までは奇跡的に嫌われずに済んでいたが、今回のこれは確実に嫌われるだろう。 ミッションの内容を伝えることが出来れば、優しい佐藤ならばあるいは許してくれたかもしれない。 だけど、それさえも出来ないのだ。 「(嫌われる…絶対に、佐藤さんに嫌われたら俺は…生きていけないのに…)」 周囲からの冷たい視線がフラッシュバックする。 蔑みに満ちた視線が、ナイフのように心を抉りズタズタにする。 その中に、いるはずのない佐藤がいて、軽蔑するようにこちらを見ていた。 ーーーーでも、そうしたのは一体誰だ? きっかけを作ったのは塩谷だ。 佐藤をこんな部屋に閉じ込め、拘束して自由を奪って、辱しめて。 全部全部、塩谷が望んだからこうなったのに。 今更、嫌われたくないなんて、都合が良すぎないか? 「(…そうだ、こんな身勝手な俺に、笑いかけてくれて、優しい言葉をかけてくれて…っ佐藤さんをこんな目に合わせているのは俺なのに…、なのに…あんまりだこんなの…佐藤さんが可哀想すぎる…)」 怖がりな佐藤さんを、一刻も早くこんな状態から解放してあげたい。 その為にはーーーー。 「塩谷さん…?あの…、?」 ふとベッドが軋み、人間の重さで沈んだことに佐藤は気付いた。 塩谷が戻ってきたのだと安心し身体を起こすが、なんだか様子がおかしい。 出口を発見出来たのなら、言葉をつっかえせながらもすぐに佐藤に伝えてくれる筈だ。 「出口、は…ありませんでしたか…?」 上手く表せられないが異様な空気に、塩谷の纏う雰囲気に、佐藤は上手く言葉が続けられなかった。 「……っ!」 両肩に手を置かれ、思わず身体が跳ねた。 そのまま軽い力で仰向けに寝転がされる。 自分の重みで拘束された腕が圧迫されて苦しかった。 「や、やだなぁ…何の冗談、」 訳もわからず、恐怖さえ感じる塩谷の行動に、それでも何でもないように振る舞おうとする佐藤。 だが顔を囲うようにしていきなり塩谷の手がベッドに沈み、佐藤はひっ…と小さく悲鳴を上げた。 「……っごめん、なさい…」 沈黙し怯える佐藤に、塩谷は今にも泣き出しそうな声でそう呟いた。

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