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きゃっきゃっとクレープ前のJKのごとくはしゃぐ二人に、新人はしょんぼりしていたが、ふと疑問が浮かんで首を傾げた。
「局長、ちょっと質問なんですが、『部屋』の設定をヤンデレモードにした時に、あながち間違ってないって言っていましたよね…あれって…?」
「ああ、始めに言っただろう?今回の任務は今までと違って特殊だと。塩谷君はただ佐藤君ともっと親密になりたい、叶うならば恋人になりたいと思っていただけだが、佐藤君の方は違った」
「?」
「嘆願書をよく読んでみたまえ、君達はこれが塩谷君が書いたものだと思い込んでいたから勘違いをしていたようだね」
局長に言われるがまま、嘆願書に目をやる新人。
その内容を再確認してみて、新人は青くなった。
『彼を俺のものにしたい。心も身体もぐずぐずにして、決して離れられないように、決して目移りしないように。俺に愛されないと死んでしまいたいと思うぐらいに。その声も身体も、心も俺のものに。俺以外何も愛せないように徹底的に覚え込ませて、誰が愛しているのかを、誰しか愛せないのかを理解させたい。だって彼を愛しているからーー』
小さな文字でびっしりと書かれた言葉は読んでいると酔ってしまいそうなぐらいで。
新人は途中で気持ち悪くなってしまった。
「ふむふむ。ということは、憧れのあの子に中出し種付け孕ませキメたいんじゃ~って思ってたのは佐藤君の方だったってことですね!まあこの場合中出しされたのは佐藤君の方ですけど!」
顔面蒼白の新人の隣できゃっと可愛らしく笑うマミに、新人は信じられないといった顔をした。
「いやー純愛ラブラブお前ら高校生か!って感じのピュアなカップルしか好まない新人君には刺激が強すぎたかな?マミちゃんは基本雑食だから平気だけど」
「もー新人君、こんなことぐらいでそんなにダメージ受けてたらこの先やっていけないよ?ほら、シャキッとして!」
「いや、…なんていうか、自分、もういっぱいいっぱいっス…」
泣きべそをかく新人に、マミの激励が飛んだ。
「そういえば、佐藤君ってどうしてそんなに塩谷君のこと好きなんですかね?塩谷君は佐藤君に優しくされたって理由がありますけど。局長さん知ってます?」
任務を終えPCに向かいカタカタと報告書を作成している中、マミはふと疑問に思い局長を見た。
本日三杯目の珈琲を味わっていた局長はそれに答えるべくマグカップを置いた。
「それはねマミちゃん、ずばり顔がタイプらしいよ」
「顔」
端っこで書類整理をしていた新人が聞き耳を立てていて、局長の答えに真顔になる。
「ああ運命的な出会いとか赤い糸とか大好きな新人君の目が死んでいってる!」
暗い表情で遠くを見つめる新人のデスクに、局長がそっとクッキーを供えた。
「顔って確かに塩谷君整ってましたもんねぇー。眼鏡取って前髪上げたらかなりのイケメンでびっくりしちゃいましたもん。というか地味眼鏡が眼鏡取ると美形ってお約束?あ、もしかして最初に出会った時、ぶつかって倒れた拍子に眼鏡がズレてー塩谷君の隠れてた顔を見た佐藤君が一目惚れしたとかそういうありがちな展開だったりします?」
「おお、マミちゃん大正解!いやー流石数多のBL書籍を読み漁ってきただけはある!」
「えへっ、最近は異世界モノにハマってますぅー」
グッと親指を立てるマミに局長も笑顔で親指を立てた。
「……俺は、少数派だとしても…負けない…ピュアラブこそ…至高…うまっ」
二人の会話に入れず、新人は一人寂しくもぐもぐタイム。
んーーと伸びをし、マミは頬杖をつく。
「はぁーーそれにしても面白い任務でしたね。報告書作成するのにも俄然気合いが入ります!んーっとヘタレ根暗×性悪ヤンデレっと…えへっこれ字面最悪〜☆最後はーー…」
ーー本件は以下を持って報告を完了するものとする。
ーー任務完了。次の対象者に移行する。
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