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02
専務と呼ばれた男は不敵に笑い、手をかざして局長達が席に着くよう促した。
「うぐぐぐ…っ」
「ど、どうしたんですか局長…?失礼ですよ…っ」
威嚇するかのように専務を睨みつける局長に見兼ねた新人がこそっと耳打つ。
すると折角新人が気を利かせて小さな声で問いかけたというのに、局長はわざわざ大きな声を出して言い切った。
「…私はこいつが嫌いなんだっ!!」
キライナンダーと会議室に響く声。
ひぇ、と青ざめる新人、そして同席していた多部署の社員達。
なんてことを言うんだと皆口を開け硬直してしまっている。
静まり返る室内、だがその静寂を破ったのは他でもない専務だった。
「相変わらず失礼な奴だな君は」
局長の失礼過ぎる態度にも顔色一つ変えず、涼しげな表情でにっこりと微笑む専務。
何でもないと言わんばかりにその全身から溢れる出る余裕に、一同は安堵し、そして同時になんて寛大な人なんだと感動した。
「それで?君達はいつまでそこに棒のように立っているつもりだい?時間の無駄だ早く席に着きたまえ」
だがその笑みに対して専務のその艶のある声は冷え切っていて、確かに怒りを含ませている。
一瞬で社員達の顔が青くなった。
「ひっ、は、はいっ!今すぐ座ります!」
思わず飛び上がった新人は、未だ歯を剥いて専務を威嚇する局長の腕を引っ張り無理矢理席に着かせ、自身もその隣に着席した。
「さて誰かさんのおかげで無駄に時間を消費してしまったが、これで全員揃ったようだね。では早速私の方から話をさせてもらおうか」
一度全員を見渡し、棘のある言い方で専務はそう切り出した。
ゆっくりとした動作でその長い足を組み替え腕を組む。
「では、何故今回専務である私がこの下っ端諸君の会議に貴重な時間を割いてわざわざ出席したかというと…ふむ、単刀直入に言ってしまおうか。現在、上層部に『部屋』の管理、またその運営に対して各部署からクレームが殺到している」
専務の話に、専務を含めた全員の視線が局長と新人に突き刺さった。
え…なにこれ?と困惑する新人の隣で、局長は眉を寄せ顔を顰めている。
「彼等の訴えでは、『部屋』の運営担当者からの数多の仕様変更にその都度対応しなければならず、定時までに仕事が終わらない、また細かい注文が多く、そちらに時間をとられる為、他の業務にも支障が出ているとのことだ。現に『部屋』については短期間の内に何度も改装改良を行っているようで、経理の報告ではその費用も馬鹿にならないそうじゃないか…。…いやはや、現状について今すぐ相応の説明をしてもらいたいのだが?」
専務の冷たい眼差しが局長を捉えた。
その専務のとんでもない威圧感に、新人は顔を青くしあわあわしている。
「きょ、局長…っ専務さんすっごい怒ってますよ…ど、どうするんですか…?って、局長っ?!」
新人が止める間もなく、局長はバンッ!とテーブルを叩き勢いよく立ち上がった。
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