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「私はトップの成績で入社試験を合格した事も相成り、新人だが直ぐに大きなプロジェクトのチームの一員に任命された。まさに期待のエースだね!そのチームにはアイツもいたのだが、同じく新人の身でプロジェクトに参加していることや、BLに対する熱い想い、そして雑食という共通点を持った私とアイツは同期の中でも特に仲が良かった」
「やっぱり同期なんだ…」
「私達は日々切磋琢磨し、お互いを尊重し励まし合う良き仕事仲間だった。日付が変わるまで熱く語り合う日も多々あった。…だが奴は私を裏切った」
長くなりそうな話に、新人はデスクの引き出しから貰い物のお煎餅を取り出した。
「ああ、あれは忘れもしない…私達はその時取り掛かっていたプロジェクト、王道主人公総受学園物を流行らせるべく日々議論し、研究に勤しんでいた」
「わ、それ資料庫に保管してある報告書で見たことあるやつだ」
封を開ける前にパキッとお煎餅を割り、それから包装を破って砕けた中身をお行儀良く一欠片ずつ口にする新人。
うま、っと思わず呟く。
「情熱に燃えていた私は次々と案を出した。まず王道主人公には正義感に溢れ少々熱血で面倒見が良いが鈍感で色恋沙汰には免疫のない美少年を抜擢し、寮付きの男子校に転入生させた。そしてその子が生徒会や教師、または幼馴染などの様々なタイプの攻と数多のイベントを通して愛を育むことが出来るよう暗躍したのだ。結果的にプロジェクトは大成功を収め、我々のチームは大いに評価されることとなった。あぁ、あの時は本当に嬉しかった!初めての仕事で得た成果に歓喜し、自らの行いが誇らしく感じたものさ」
「ふむふむ」
新人はお煎餅を全て食べ終わると、再びデスクの引き出しを開け、今度は貰い物のクッキーを出した。
「アイツを信頼していた私は次のアイデアが浮かぶとすぐにアイツに報告した。アイツは同調し私のアイデアを素晴らしいと褒め称え、それに気を良くした私はアイデアが浮かぶ度に全てアイツに報告するようになった。…そしてそれが最悪な結末を迎えるとも知らずに……あの、ちゃんと聞いてる?」
あまりにお菓子を食べる新人に、段々心配になってきた局長はそう問いかけた。
新人はクッキーを頬張りながらキリッと表情を引き締めグッと親指を立てる。
「聞いてますとも、続けて下さい」
「…本当に?なーんか怪しいな、後で問題出そうかな…では、続きを話そう。それはプロジェクトの次の段階について議論していた時だった、アイツが突然チームの前で私が発案しようとしていたプロットをさも自分が考えたかのように発表したのだ…!次回の受を王道美形主人公系から平凡地味脇役系へ変更するという素ん晴らしいアイデアを!」
あー…そういえばそれも報告書で見たような、と新人は記憶を辿る。
「私は驚愕したさ、だってそれはかつて私がアイツに嬉々として語っていたアイデアだったから…!それだけじゃない、アイツは平凡受から始まり、非王道やら嫌われ主人公受など、盗んだ私のアイデアをさも自分が考えたことかのように次々と提案した。そしてまた最悪なことにそれらは全て採用されたのだった…そしてアイツは次々とプロジェクトを成功させ数えきれない程の成果を残し、出世街道真っしぐら。今じゃ上層部のトップを取り仕切る専務様となったのだった……こんちくしょーっ!!てめぇなんか大嫌いだーーーっ!!!」
うわーんと顔を手で覆い泣き真似をする局長、どれだけ専務に対し悔しい思いをしてきたのかはわかったが、新人にはある疑問が残った。
「局長の話が事実だとして、なんで専務さんじゃなくて、全部局長のアイデアだって主張しなかったんですか?」
「え?…あ、えっとそれは…」
何故か動きを止め明後日の方向を見やる局長。
そんな反応に新人が首を傾げていると、突然オフィスの扉が開く音がした。
マミが戻ってきたのかとそちらに目線をやると、そこには局長が憎んで止まない専務の姿があった。
「それはこの私が説明しよう」
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