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第3話
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凪Side
ベースを始めてまだ一年だという紅葉をサポートメンバーとして迎えるか…悩んだが、とにかくワンマンLIVE時間がなくて…
ここで紅葉を断ったところで代わりを見つけることは難しい状況は変わらない。
ベーシストは貴重だ。
ギターやボーカルに比べてどうしても地味なイメージだからなのか、そもそもまともに弾けるベーシスト自体の人数が少ない。
バンドの演奏レベルや音楽性、そして何よりリズム隊としてドラマーとの相性が合うやつを見つけるのは困難なのだ。
一先ず紅葉とコンビを組んで練習を続けることになった。
初日の昨日は軽く音合わせをして、あとは久しぶりに会ったので雑談をした。
紅葉の持っていたバイオリンを聴かせてもらうとめちゃくちゃ巧くて驚く。
ベースを弾く時もそうだけど、バイオリンも構えた瞬間に顔付きが変わるというか…スイッチが入るようで、曲への感情移入も見事なものだし、楽器の特性を最大限活かした演奏をしようという気持ちも伝わってくる。
俺は紅葉がバイオリンを弾く姿勢がけっこう気に入っている。
何故ベースをやり始めたのか聞いたら俺と音楽をやってみたかったのだと答える…。
なんか懐かれたらしい…?
確か、去年待ち合わせ場所が分からなくて迷子になってたところを迎えに行ってから慕ってくれているのは分かっていたが…!
この不思議な少年は俺を好きだと言う。
あれ、俺のドラムが好きなんだっけ?
で、ベースも弾けるようになったら側にいていいかって言うのはどーいう意味?
過大解釈して俺のことが好きだと言われた気でいたけど…そっか。
日本語慣れてないからな。
とりあえず俺のドラムが気に入って、イトコのいるバンドに入りたいってこと?
俺はドラム歴約10年。
実は18までは料理人になるつもりで高専に通っていて、調理師免許も持っている。
音楽は趣味で続けていくつもりだったけど、やっぱりどこかで諦められない自分がいて…
随分悩みながら一年間は日本料理店で働きながら音楽活動を続けて、最終的に音楽を選んだ。
仲間やドラムの師匠、いろんなバンドの先輩方に恵まれ、そこそこ名前も知れたロックドラマーになれたと思っている。
正確なリズムを刻むための練習や重低音を響かせるために日々の筋力トレーニングも欠かすことはない。
ただ今まで培った経験や音楽に対する思いもひとしおで、妥協することが大嫌いだ。
口も良くはない、イヤ、はっきり言い過ぎるせいかいつもベースのメンバーと揉めて、拗れて、辞めていく。
時には自分からバンドを去ることも多かった。
でも2年前Linksに誘われ、才能溢れる仲間たちに巡り会った。
このバンドでいけるところまでいく…それが今の俺の夢だ。
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