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第5話

9/28 LIVE 5日前 Linksスタジオ練習日 メンバー全員が集まり、紅葉のベースの演奏状態を確認する 紅葉のイトコでみなは一言だけ「なるほど…。」 ギターの誠一は「個性的? ギター寄りな感じかな?」 「凪的にはどうなの? やりやすい?」 リーダーの光輝が訊ねると凪は頷いた。 「なんていうか…紅葉の独創的なラインは面白いし、俺は気に入ってる。 今までとは違う新しいアプローチになると思うけど、煮詰めればうちの音楽に合うと思う。」 「そうだね…。じゃあ一回合わせてみようかな。」 光輝がそう言うと各自、楽器のセッティングにを始めた。 紅葉は先程の凪の一言に嬉しそうだ。 一曲通しで演奏を終えて… 「私からは言うことないから三人で話して。 紅葉と少し出てる。15分くらいで戻るから。」 そう告げたみなは紅葉の手を引いてスタジオを出た。 2人は外の自販機で飲み物を買って、近くの公園へ。 長い付き合いの2人には細かな説明は必要ない。この数日で劇的に変化した紅葉の演奏にみながメンバーの前で多くを語らなかったのには理由があった。 「…大丈夫? 思いっきり母親の影響受けてるよ? 自分で分かってる?」 「意識して真似しようと思ったわけじゃないよ…!! なんか自然になんだよね。」 彼女は紅葉のベースラインの原型が亡くなった母親の影響であることを見抜いていた。 紅葉の両親は彼が5歳の時に事故で亡くなっている。母親はチェリスト、父親はバイオリニストだった。 幼くして遺された紅葉は両親を失ったショックから音楽を聴くことも両親から習っていた楽器を弾くことも出来ずにいた。 それでも父親の形見であるバイオリンを弾くことを選んだのは、母が望んでいたからだ。 『紅葉は父さんに似たのね。大きくなってバイオリンがもっも上手になったら私とコンチェルトしましょうね。姉さんやみなちゃんも招いてみんなで演奏したらとっても楽しそうね!』 その言葉がずっと紅葉の支えなのだ。 「紅葉は辛くないの?」 「チェロを弾くのは…多分無理だよ。 でもベースなら大丈夫みたい。なんでか分からないけど…」 「凪でしょ?」 「えーっ?!そこかな?」 「一人で練習してた時より音が安定してる。 目がずっと凪を追ってるし…!! まぁ、良かったようで、また面倒くさいね、紅葉は…」 鋭いみなには全て分かっていたようで、軽くため息をつかれたが、紅葉が過去から一歩踏み出せた様子に笑顔を見せた。 「凪のどこがいいのかサッパリだけど…。 あ、そうだ!今日はうちで一緒にごはん食べながら話聞かせてよ。」 「えーっ?! でも…、今日凪くん肉じゃが作ってくれるって言ってたから…」 「あ、既に胃袋掴まれてる系か(笑)」 スタジオに戻ったみなと紅葉。 3人は既に話を終えたようで、リーダーの光輝が代表して紅葉に話す。 「えっと、紅葉くん。 だいぶ粗削りだが、上達が速くて音楽のセンスも良い…。 でも今の君の技量をバンド全体で補うために全体的に曲のアレンジをする必要があるんだ…。 これからライブのセットリストを決めるから、君にはあと数日で曲を覚えてもらうのと同時にエフェクターとか機材の使い方も覚えてもらわないといけない。 それが出来るなら5日後にLinksのライブステージに立ってもらいたい。 それから…もし今回だけじゃなくて今後もサポートメンバーや、正式メンバーとしての加入を考えてもらえるのならの話なんだけど… 今は紅葉くんのレベルに合わせてバンド全体で100%のパフォーマンスを目指すことになるけど、ゆくゆくは個々のメンバーが100%の実力を出して120%のパフォーマンスが出来るバンドにならなくてはいけない。 紅葉くんがどこまで本気でやりたいのか実力ややる気を見極めながら決めたいと思う。」 「…紅葉わかった?」 みなが確認するように問いかける。 「んと…、うん。分かったっ!!」 「いや、絶対分かってないから(笑) 光輝くん、理屈っぽすぎる。」 みながそう言うと光輝は改めて紅葉に向かい合った。 「紅葉くん、とりあえず5日後のライブよろしく。」 「っ!! はい!! やった!! 頑張るー♪」

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