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第9話
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紅葉の真剣な告白にこれはきちんと向き合って考えないといけないなと感じた凪は結局飲みにはいかずに帰宅した。
紅葉の手紙を読むと10日間の同居のお礼が改めて綴られており、2人で過ごせてすごく楽しかったこと、料理の感想、音楽のことをたくさん教えてくれた感謝の気持ちが書かれていた。
去年会った時も今と変わらず流暢に日本語を話せていたが、確か読み書きはほとんど出来なかったはずだ。
「そうだ…!それであいつ迷子になったんだ。」
この1年で随分勉強したことが伺えた。
同居中もドリルをやっていたし…慣れない環境で暮らすだけでも大変だろうに勉強もバイオリンもベースも頑張って、突然LIVEにまで出て…相当キツかったはずなのに愚痴1つ溢さない紅葉に芯の強さを感じている。
丁寧に綴られた手紙にはメールやLINEとはまた違った、温かみが感じられた。
紅葉の気持ちとして、1年前から凪に好意をもっていたこと。
去年迷子になった時に一番に見つけてくれて「ごめん!心細かったよな。一人でよく頑張ったな。」と言って頭を撫でてくれたことがすごく嬉しかったこと。
帰国してからももう一度会いたい気持ちがずっとあって、一緒に音楽が出来たらいいなという気持ちからベースを始めたこと。
1年、気持ちが変わらなかったら告白しようと思って日本の学校を選んだこと。
最後にバンド活動とは区別して接するのでどうかこのままの関係でいて欲しい旨が書かれていた。
「マジか…!
1年片想いでベース覚えて日本に来ちゃうとか相当だな…。行動力ありすぎ…! 」
どうするべきか悩む凪。
「頭ん中整理してみよ。」
顔、容姿=◎ 誰がどう見ても美少年
性格、人間性=◎ 素直で明るくて努力家
共通点=音楽◎ 才能に溢れている
仕事への理解=同じバンドのメンバーなので◎(但し逆にリスキーでもある)
話題や価値観=育った環境というか国が違う割りには今のところ違和感ないので○
年齢差=俺23、紅葉が来週で18なので5才差…今は紅葉が未成年だからビミョーだけど、数年後…26と21と考えると普通なので、まぁ○かな。
付き合うに当たって一番の壁が『同性』ってことなのは明白だ。
今まで男とは付き合ったことがないし、多分だけど…紅葉は誰とも付き合ったことがないと思う。
いつものノリでと言ったら聞こえは悪いが…とりあえずで付き合っていい相手ではないし、一度ヤってから考えるとかも絶対なしだ。
本当に真剣に俺なんかを1年も一途に想ってくれている相手だからこっちも真面目に考えないと…。
俺もいい大人なので付き合う以上プラトニックは有り得ず、紅葉と体の関係をもてるのかというところが一番の要になる。
一先ず男同士のヤリ方とかを調べてみた。
ネットを漁るとその手の動画はすぐに出てきたが、精神的ダメージが酷かったので秒で切り上げて、わりと真面目なLGBTQのサイトで勉強したり、BL小説から想像してみたり…。
YouTubeでキレイ目の同性カップルの手つなぎやキスなどの動画も見てみたが、意外と抵抗感はなかった。
まぁ、実際ヤってみないとヤれるのか分からないけど…。
キスが出来たらその先も抵抗なさそうかも?
同性カップルも男女のカップルも最初は手探りで相手を思いやるのが大事ってのは変わらないのかなという印象だった。
紅葉相手なら高校生…いや、中学生くらいの気持ちで交際を進めればいいのか?
気持ちは10才若返る感じ?
…無理。ってか中学生でもあんなピュアじゃなかったし、
え、俺堪えられるの…?
あとは自分自信が社会的マイノリティーに属することへの覚悟かな…。
もし紅葉と付き合うことになっても関係を公にするうもりはないが、紅葉は嘘がつけないからバレる人にはバレるだろう。
俺の方が年上なので、いざというときのためにもその辺はしっかりしたい。
…次に紅葉の好きなところというか気に入ってる部分を考えてみる。
俺の作る飯をニコニコと屈託のない笑顔で旨そうに食べる紅葉の顔はけっこう好きだ。
(しかも見た目よりスゲー食う)
いただきます、ごちそうさまの挨拶もしっかり身に付き、積極的に後片付けも手伝ってくれる。
音楽に対して弱音を吐かない。
俺のドラムを誉めてくれる。
バイオリンを弾く姿勢が美しい。
他人の悪口を言わない。
…あれ?
俺らけっこう紅葉のこと好きなんじゃね?
凪は紅葉の誕生日デートまでの6日間、かなり真剣に悩むことになった。
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