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第12話

10/9 9:30 凪side 紅葉の誕生日前日、テスト2日目の朝。 朝早く…むしろ俺的には深夜だ。 昨夜全然眠れず、明け方5時か6時にようやく寝たのだ。 珍しくこんな時間に光輝から電話が入った。 「…何?」 「こんな時間にごめん。 あー、警察から連絡があって今からみなと紅葉を引き取りに行くんだけど、凪、ちょっと来てくんない?」 「はっ?!」 1023 警察暑の前で光輝と合流すると、既に光輝は疲れている様子だった。 新曲の曲作りが大詰めで2日間徹夜のあげく、2時間前からずっと警察とみなたちの間に入っているらしい…。 「悪いね。 誠一は今日大学でさ。」 「何がどーした?」 状況がさっぱり分からず光輝に確認する。 「なんか…紅葉が最近痴漢にあってて、みなが今朝同行して犯人捕まえたらしいんだけど、相手が怪我しちゃってさ…。 あ、ちなみに相手リーマンの男ね。」 「はぁー? 何、あいつ殴ったとか?」 「逃げる時に勝手に転けたらしい。けど、相手がみなが手出したとか、紅葉とは合意だとか言ってて。」 「…俺もそいつ殴っていーい?」 合意の訳ねーだろ! 「ややこしくなるから止めて。 みながキレまくってるからまだ時間かかる。 弁護士掴まらなくて…。 先に紅葉、連れて帰ってくれない?」 「いいの?」 「…けっこうショック受けてるから休ませてやって。今日仕事平気だっけ?」 「夕方から。あれなら…誠一と調整する。」 「了解。頼むね。」 案内されて部屋に入ると紅葉が女性警官と隣り合って座っていた。 両腕の中には大事そうにバイオリンケースを抱えている。 そして隣の部屋からはみなのキレまくってる声が聞こえてくる。 紅葉は対照的に静かに落ち着いて見えたが、俺の姿を見ると少し驚いた様子だった。 「凪くん…っ!」 外は冷たい雨が降っている。 制服姿の紅葉は少し寒そうだ。 一先ず車で自宅へ連れて帰り、風呂をすすめた。 でも紅葉は真っ先にバイオリンを確認している。丁寧にみてから音を出して確認し、ほっと息をはいた。 「…大丈夫か?」 「うん。でもケースが…!」 見ると蝶番の部分が歪んでいた。 「落としたのか?」 「さっきの…男の人が逃げる時に当たって…!! どうしよう…直るかな?」 確か父親のものだと言っていたバイオリンはすごく大切なものなのだろう。 本当に心配そうな、泣きそうな顔をしていた。 「このくらいなら修理に出せばいけると思うけど…。アテがないならあとで一緒に探そう。 お前は?怪我ない?」 「うん、大丈夫…。」 「みなが戻るまで一緒にいるから…。 とりあえず風呂入る? 部屋着出しとくから先に暖まってこいよ。 俺もそのあと入るからお湯抜くなよ?」 「…一緒に入ろ?」 「……。」 …分かってる。 これはそういう意味じゃない。 純粋に、天然で、計算じゃない。 痴漢なんかにあって、怖かったのだろう。 一人になりたくないんだな。 でも一緒に風呂はダメだ。 俺がいろいろヤバい。 「風呂は一人で入れ。 で、上がったら一緒に寝てやるから…。」 「うんっ!!」 紅葉は嬉しそうにバスルームへ向かった。 精一杯の努力と譲歩で提案したが、大丈夫だろうか…俺…。 すっかり忘れていたが、同居時に置いていた紅葉の部屋着が今は置いてなくて、仕方なく俺のを貸したが、案の定ブカブカ…。 これが彼シャツ状態ってやつ? 細いから肩も見えてるし、スエットのズボンは落ちそうだ…。 まぁいいか…寝るだけだし。 そう、フツーに寝るだけ。 ベッドに寝転ぶとご機嫌な紅葉。 「わぁい、凪くんの匂いするー!」 え、何それ?香水? 俺、臭いわけ? 「昼になったら起こしていいから…ちょい寝かせて。お前も疲れた顔してる…、眠れなくても少し横になっておけよ。」 そう告げて、なるべく意識しないように壁側を向いた。 「凪くん。あのね…!!」 「ストップ。 言いたくないこと言わなくていいから。 散々警察で話したんだろう?」 背中に向けられた声を制止する。 「うん…。」 「悪いのは痴漢ヤローだから気にするな。 昨日俺が言ったこととコレは別! つーか、昨日マジで言い過ぎた。…ごめん。 とにかく!痴漢は暴力でお前は被害者。 …お前のせいじゃない。 ってか、もしかして昨日の朝電話してきたのもコレか?!」 ハッとして一度起き上がり紅葉を見つめる。 「うん…。 みなちゃんに相談したの。 そしたら結局…こんなことに。 みなちゃん悪くないのに…!大丈夫かな…」 「あいつには光輝がついてるし、テストも減点なしで再試にしてくれるって言うから心配しなくて大丈夫だ。」 「うん…。 あの…、迎えに来てくれてありがとう。」 「ん。 よし、寝ろ!寝て変態ヤローのことなんか忘れろ!」 そう言って、紅葉を抱き締めて横になる。 以前ハグをした時には分からなかったが、思ってた以上に華奢な身体に気付き驚く。 こんな綺麗な身体を…変態ヤロー許せん! 「…ドキドキして寝れないー!」 紅葉はしばらくジタバタしていたが、構わずそのまま抱き枕にしておき、気付いたら俺は睡魔に負けていた。

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