15 / 144

第15話

2046 10月も昼間はそれなりに暑さを感じる日もあるが、夜は風もあって少し肌寒い。 2人は都内の外れにある静かな神社に来ていた。 駐車場に車を停めて、坂道と階段を登って行く。 ライトアップまではされていないが、昔ながらの街灯がほんのりと辺りを照す境内には紅葉の木が植えられている。 紅葉の有名スポットという訳ではないが、十分雰囲気は楽しめるだろう。 「おっと…。 さすがにまだ早かったかな。 やっぱもう少し北上するべきだったか…!」 「何…?何かあるのー?」 「これ、紅葉(もみじ)だよ。 まだ赤くなってないけど…ほら。」 「これが紅葉? けっこう小さい葉っぱなんだねー。」 「そう。お前自分の名前の木なのに本物見たことないって言ってただろ? 今まだ緑だけど、もう少し寒くなってくるとだんだん赤くなってキレイなんだ。」 「そっか~!!」 「紅葉さ、今日楽しかった?」 「うんっ。とってもー!! ありがとう、凪くん!!」 「…誕生日おめでとう。」 「ありがとう。 すごく特別な誕生日になったよ。」 「そっか。俺も楽しかった。 …えーっと、でさ。 紅葉はこれでいいわけ?」 「んと…。」 「手紙の通り、これからはメンバーの付き合いだけでってことでOK?」 「うん…っ。」 「…待て! じゃあなんでそこで泣くかな…っ!!」 気持ちをおさえようと、涙目になる紅葉に凪の方が動揺していた。 お互いのために、バンドのために恋愛関係になるべきではない。 そうは分かっていても紅葉は自分の気持ちを抑えることが出来なかった。 「えっと、バンドで一緒にいられるだけでも嬉しい。 でも…これから先さ、もし凪くんに彼女とか出来たら…そういうのも知るだろうし、そしたらきっと…とってもツラい。 今日、すごく幸せで、夢みたいで…ドキドキしたよ。 映画館で隣に座ったり、一緒にお誕生日ケーキ食べたり…。そういうの、他の誰かとして欲しくないって思っちゃった…。 僕、帰り…歩いて帰ってもいーい?」 こんな卑怯な考え方は良くないから頭を冷やしたいという紅葉を慌てて止めた。 「待て待て!! 告白からの着地点おかしーから!!」 「えっと…。どーしよ?」 「とりあえず、俺の気持ちも話したいし、聞きたいこともあるから…! ちょっとそこ座って落ち着こうか…。」 凪が近くのベンチを指差し、ここへ来る途中にコンビニで買った自分用のコーヒーと紅葉にはカフェオレを差し出した。 2人で飲みながら話を整理する。 「紅葉は恋愛対象が男なの?」 「多分…。他に好きになった人いないからよく分からないけど…」 「女の子はどーなの?付き合いたい?」 「んー、可愛いとは思うけど、女の子は…友達かな。」 「なるほど…。」 まぁ、一番身近がアレ(みな)だしなと密かに考える凪。 「男は?付き合ってって言われたらどーする?」 「…考えてみるね!」 「え、今?(苦笑)」 しばらく間を置くと、俯いてしまう紅葉。 「えっと…泣かないでもらっていーですか?」 「…無理そう。」 鼻をすする声に凪は困惑した。 「…どーした?」 「凪くんが他の人とって考えるのもツラかったけど、自分が他の人とって考えるのはもっと無理だったよっ。」 「……。」 ストレートに自分以外は対象外で無理なのだと告白されて、ある意味腹を括る凪。 こんなに一途に想ってくれる子は多分この先現れないだろう…。 「付き合う…?」 「? 今度はどこ行くの…? もう遅いけど付き合うよ! あ!…違った? えーっと…?誰と誰の話だっけ?」 「…俺と紅葉くんですよ。(苦笑)」 「っ!!えーっ?! 本当にっ?!」 「本当に、本気で。 男と付き合ったことないからかなり手探りになるとは思うけど… 俺は紅葉と付き合いたいって思ってるよ。」 「凪くんっ!!!! ……どーしたのっ?!」 驚き過ぎてリアクションがオカシイ紅葉に笑う凪。 「紅葉は素直だし、こんな俺のどこがいいのか知らないけど海を飛び越えて会いに来ちゃうし、でも全然そのことを鼻にかけず、直向きに音楽頑張ってるし…なんか一緒にいたらさ、いつの間にかスゲー可愛く思えて…。 …好きだよ。 俺と付き合ってくれる?」 「…っ!!夢じゃないならハグしていーいっ?!」 「どうぞ…?」 「大好きっ!!っていっぱい言ってもいいっ?!」 「いいよ(笑)」 ギューっと凪を抱き締める紅葉。 とても嬉しそうで早速の愛情表現だ。 「…っ!! あのさ…、カフェオレ持ったままだよね? …思いっきりかかったんだけどっ!!」 「わわっ!! ごめんー!! 持ってたの忘れてたっ!!」 「さすが紅葉だよ… 甘いやつだからスゲーベタベタ…。」 「ごめんなさいー!! あ、僕の服着る?小さいかな…。」 「待て! こんなとこで脱ぐな!!外だぞ?! いーから…!! もー、雨降って来たし、帰るぞ。」 歩き出す凪の腕をとって止める紅葉。 繋がれた手を嬉しそうに見詰めながら揺らす。 「…キス、したいな。 イヤ?」 「…今?」 「ダメ?」 「ここ外だぞ?神社。神様の前…」 「夜だし、雨だから誰もいないよ? 日本の神様、同性愛に反対なの?? 僕、好きな人と初めてキスするのにここがいーな。」 「……。」 凪は少し迷って、繋いだ手をぎゅっと握り、抱き寄せてから紅葉の顎を長い指で持ちあげて唇にキスを落とした。 「…ふふっ」 微笑む紅葉と目が合って、顔を寄せ合って、もう一度キスをする。 角度を変えて歯列をなぞると紅葉は「ダメダメ!息出来ない」と訴えた。 「鼻で呼吸しろよ。で、俺の真似して。舌。…ん、そう。」 「…くちゅっん!!」 ディープキスの合間にくしゃみをする紅葉に苦笑する凪。 恋人初日からいろいろありすぎて面白い。 二人は手を繋ぎながら駐車場へと戻った。 暖房をつけて、車にあったタオルで髪や身体を拭くが、急激に強くなった雨で、すでに二人ともずぶ濡れだ。 「車濡れるね、ごめんね。」 「仕方ねーよ。 ってかこれ、風邪ひくな…。 …ホテルでもいっちゃう?」 「っ!! 凪くんがいいなら…」 寒さだけじゃないだろう…震える指先が見えて凪は反省する。 「アホ…。 冗談だって。 あー、ごめん。 浮かれすぎて軽はずみな発言でした。 紅葉、……大事にするから。」 頭を撫でると紅葉がコクンと頷いた。 「…もうっ、凪くんがカッコ良すぎる! 風邪ひいてもいーよ!」 「いやいや(笑) 帰るぞ。」

ともだちにシェアしよう!