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第26話

一方、通用口の脇で紅葉の頬を冷やす凪。 「ありがと。もう平気だよ。」 にこりと笑う紅葉は落ち着いていて、凪もホッとする。 「これくらいなら痕にならないと思うけど、念のため薬買ってきてもらって塗ろう…。」 「うん。」 「他は?何もされてねぇ?」 「大丈夫。 ベース下手くそな外人とか、瞳の色が変とか…ハラスメントなことは言われたけど… まぁ、本当のことだし…。 それより僕、男なのに女の子たち守れなくて情けない…。」 「…気にすんな。俺もすぐいけなくてごめんな。 それと、俺は紅葉のベースが好きだし。 可愛くて、カッコよくて、髪も目も全部キレイだし、自慢の恋人だから。」 他から見られないように壁側の紅葉を背中で隠して唇をかすめる。 「ふふっ。」 「元気出た? 明日学校休みだよな? 終わったらまたラーメン食いにいこっか。」 「お友達と飲みに行かなくていいの?」 「ん。 ラーメン食べて、うちでイイコトしよっか?」 「キャー!どうしよ。」 2人は揃って楽屋に戻った。 結局、ディレクターに事の顛末を説明して、予定通りにイベントに出演することに。 みなに怪我をさせたバンドのメンバーとは顔を合わさないように配慮された。 凪は紅葉ヤケドを追わせ、暴言を吐いた男をこっそりと締め上げ二度と近づくなと釘をさす。 みなと紅葉は薬をもらい、紅葉のヤケドは空気や髪が触れるとヒリヒリするらしくらグッズの絆創膏を貼ってステージに上がった。 怪我の功名と言うべきか終演後、この絆創膏がすごく売れたようだ。 みなは全く問題なくパフォーマンスを行い、LIVE後の片付けを他の3人に任せると光輝が病院へ連れて行く。 検査の結果、鎖骨にはヒビが入っていて光輝が青ざめていた。 医師も「痛くないの?よく我慢出来たね。」と驚く程だった。 形成手術も勧められたが、忙しいの一言で断り自然に治るのを待つことになった。 喧嘩の内容については示談になり、診断書をもらい、相手に治療費を請求する予定だ。 「えー、慰謝料も欲しいくらいだけど、あいつ金持ってなさそー…。 一応弘中(弁護士)に連絡しとこーっと。」 「…頼むから寿命縮まるようなことしないで。」 「分かってる。…迷惑かけてごめんね。 またいろんなとこ謝る感じ?」 「それは別にいいし…。 迷惑ってか心配してるんだけど…。 あ、何か手伝う?着替えとか?」 「大丈夫。 ってか、着替え?…セクハラだし。 …じゃあお疲れ!」 マンションの前で解散し、光輝は関係者に騒動の謝罪の連絡をしたり後始末に追われた。 その後のイベントでも嫌がらせを受けたりすることもあったが、なるべく一人にならないよう行動に気をつけることを徹底して、喧嘩などが起こらないよう気をつけていた。 それでも次のイベントではリハーサル前にギターのチューニングをする機械がなくなっていて、しかも予備を含めて全部のギター、ベースのチューニングがめちゃくちゃになっていた。 イベントなので時間が限られていて、出番が差し迫る中ヒヤリとしたが、絶対音感をもつみなと紅葉が手早くチューニングを行い問題なくリハーサル、そして本番に臨むことが出来た。 「嫌われてるねー、うちら。」 「…僕のせい?」 紅葉が気にするが、全員違うと首を振る。 「有難いことに新曲の売上が好調だから妬みだと思う。紅葉はどんどん巧くなってるって評判だよ。みなも我慢してるし…。みんな気にしなくていいから。LIVEに集中するべきなのにこんなことばかりでごめん…。 とにかく調子上げてイベントとツアー頑張ろう!」 光輝が告げると皆頷いた。 これ以上嫌なことが起こらずに東京、名古屋、大阪のワンマンLIVEを無事に迎えられるよう練習とミーティングを重ねた。 11/25 忙しい合間を縫って、紅葉(こうよう)を見に来た凪と紅葉。 最近は仕事と紅葉は学校のミニテストなどもあり、健全なデートが多い。 今回は近場の新宿御苑だが、キレイに色付いた紅葉も見れて、甘味処があり紅葉は大満足の様子だ。 「紅葉くんみたいなの、花より団子って言うんですよー?(笑)」 「コトワザだっけ?知ってるー! ちゃんと赤くなった紅葉も見てるよ。 連れてきてくれてありがとう。 あ!あとで写真撮ろうね! ん、これ美味しいよっ! 凪くんも一口食べる?」 人前であーんしようとする紅葉をなんとか止めた凪は、クリームあんみつを頬張る恋人の姿を写真に撮った。 11/30 ドイツの家族にクリスマスプレゼントを買いたいという紅葉に付き合って街へ出ることにした2人。 「どこ行く?」 「オモチャ屋さんっ!!」 『オモチャ』と聞き、一瞬やらしい方を想像してしまった凪は「弟たちに日本のオモチャ買うんだー!」と無邪気に話す紅葉を前に激しく反省する。 欲求不満なのかな…と眉間にシワを寄せる凪を不思議そうに見上げた紅葉。 凪はロックミュージシャンには似つかわしくないポップなカラーが溢れるこどもオモチャ売り場と売り場を駆け回るチビッ子に狼狽えるが、紅葉は次々にオモチャを選んでいく。 「これ5才から?リックにどうかな…? あ、こっちの方がいいかな?」 「兄弟何人だっけ?」 「僕と珊瑚の下に5人だよ。」 双子の兄弟と下にもたくさんいるのは聞いていたが、5人とは… 「5人っ?! 多くね?」 「んと…なんて言うんだっけ? あ、養子?下の子たちは養子なの! でもみんなイイコで可愛いーんだよ!」 この前のモデルの仕事でたくさん給料が出たから全員に奮発したプレゼントを贈るのだと嬉しそうな紅葉。 「…お前のそーいうとこ好き。」 「っ!! 凪くんがデレたっ!!」 「ふはっ、変な日本語覚えたなぁ。」 その日の夜はちょっとホームシックになった紅葉を慰めて、凪の欲求不満も解消されたのだとか…

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