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第29話
※後半NL表現があります。
12/25
Linksツアー初日
東京公演
1330
「え、なんかいつも以上にボーッとしてるんだけど…。大丈夫かな…」
整形外科に寄ってから会場入りしたみなが、ステージ上でベースを持って座りながら客席を眺めている紅葉を見て心配そうに告げた。
「…ちょっと、なんか甘い物でも食わせてくる…」
凪はそう言って紅葉を呼び戻し、楽屋に向かった。
クリスマスなので光輝がメンバーとスタッフにケーキとコーヒーを用意してくれたのでみんなでそれを食べることに。
先にコーヒーを飲んで休憩している誠一が声をかけた。
「おはよー。
病院どうだった?」
「年末の休み前で最悪の混み具合。
整形外科なんてじじばばばっかじゃん。
もー、うるさい…。待ち時間にLIVEのこと考えたかったのに全然集中出来なくて。光輝くん、あとで少し一人になりたい。」
「会議室押さえとくから。
ヒビは?治った?」
「あと少しらしいよ。
別に痛くないからもう放置でいいかな?
あ、紅葉、ケーキもっと食べる?」
みなが勧めるが紅葉は凪と仲良く動画を見ている。
「朝も食べたからもういいよー。」
「朝からケーキっ?!
ん? 紅葉…
何そのピアス! もらったのー?
ちょっと見せて!!」
みなが紅葉の右耳に光る黒いピアスを見つけた。
紅葉がつけているピアスは2つ。
1つは生まれたときからつけている赤いピアス。もう1つは穴は開いていたが、ピアスをなくしてからつけてなかったのだ。
クリスマスプレゼントに凪からもらったようだ。
「わわっ! 耳、引っ張んないでー。」
「うわっ、これブラックダイヤじゃん?
…すごいね。キレイー。」
控えめながらも瞬く輝きは品があり紅葉に似合っている。
「え、ダイヤモンドなの?」
「分かってないよ、この子…。
いい石だねー。高そうー!」
「えっ!ホントに?
どーしよ…。
僕、大したものあげてない…。」
凪へのプレゼントはバイオリンを弾いたのとアレと…エプロンとドラムスティックケースだ。
紅葉が気にしていると凪はこっそり気にしてない、十分だから。と耳元で伝えた。
「似合ってるよー。
黒だから派手過ぎないけど、照明当たったらステージでも映えそうだね。」
誠一にもそう言われて紅葉も嬉しそうに微笑んだ。
リハーサル後、みなは一人、会議室で精神統一をして、無事本番のステージへと向かった。
コンディションは悪くないが、やはりLIVE前日は仕事をするべきじゃないなと感じながらも歌とパフォーマンスに集中する。
去年より大きなキャパシティのLIVEHouseだが、チケットはソールドアウト。
Linksは最高のパフォーマンスを見せた。
アンコールはクリスマスなので特別バージョン!
サンタのコスプレも考えたが、ありきたりなのでLinksらしくいこうとみんなで考えていたのだ。
先ずはスーツに着替えた紅葉がバイオリンを抱えて登場する。
またしても立ち位置が分からずスタッフに怒られる紅葉…客席からも失笑が聞こえた。
紅葉は照れ笑いを見せたあと、楽しそうにクリスマスキャロルを奏でて会場を和ませる。
プロフィールにバイオリンが弾けることを開示していなかったので、驚きの声が上がるが実はこれは序章だった。
楽しげな曲が終わると弦を構え直して一呼吸置く紅葉。
先ほどとは顔付きが一変して、弾き始めたのはパガニーニ24の奇想曲、第24番
第1と第2だけだが、誰もが知る難曲に観客はぽかんと口を開けた状態。
完璧に弾き終わると紅葉は一礼して後ろへ下がる。そのまま凪のドラムソロへ入り、バイオリンからベースに楽器を変えた紅葉がいつもの笑顔で演奏を始める。
そこへギターの2人も順に加わり、みなもマイクを持ち登場。
観客を煽りながらの即興セッションを行った。
そして代表曲『eternal』につなげて大盛り上がりで幕を閉じたのだった。
23:41
完全燃焼、満身創痍でいつも以上に疲れたLIVE後、光輝の車で自宅へと送ってもらう。
マンション前に到着する頃、光輝から「ちょっと話がある…」と言われたみなは今日のLIVEのダメ出しかなと思いつつ、何?と聞き返す。
光輝は荷物を運ぶついでに部屋までいっていいか聞くと玄関までなら…と答えたみな。
光輝は荷物を置くと「はい、これ」とみなに小さな紙袋を渡した。
次の仕事の資料かクリスマスのプレゼントかな?と思い、流れで受け取ったみなだったが、紙袋は二重になっていて中の袋のロゴと中身の箱の大きさを見て固まる。
「これ…渡し方とかいろいろ違くない?」
「不意打ちで渡さないと受け取らないと思って。ちゃんと形で示したかったから…」
見事に計算されていてみなは困惑した。
「絶対メジャーに連れていくから、俺と結婚して下さい。俺の一生をかけて幸せにする。」
「……えっと…。う~ん…。
…保留ってあり?」
「もちろん。2年待ったからもうあと2年くらいは待てるよ。ゆっくり考えて?」
まだ名古屋と大阪でのLIVEやインストアイベントも残っている。
みなはひとまず返事を待ってもらうことにした。
光輝は呆気ないほどそのまま帰宅し、残されたみなは右手の小さな紙袋を見てため息を吐いた。
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