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第32話
インストアイベントの行われるCD店のスタッフと談笑しながら、昼食を食べそびれたので、差し入れをつまみながら支度をする。
冒頭のトークで光輝が今いろいろ出ている噂はほとんどが嘘で、やましいことはなく、Linksは日々真面目に頑張っているので信じて欲しい旨をファンに伝えた。
誠一はSNSの書き込みや嘘がイジメや人を傷付けることにも繋がるので十分気をつけて欲しいと訴えた。
凪は日々支えてくれるファンに感謝を示しつつ、一人一人の言動と行動を含めてバンドの存在価値なので一心同体で頑張ろうと告げる。
みなは紅葉とは母親同士がものすごい仲の良い一卵性双生児だったと話し、紅葉とはイトコでも遺伝学的には兄妹になるので恋愛関係はあり得ないとはっきりと言った。
紅葉は自分をLinksのサポートメンバーに迎い入れてくれたメンバーと受け入れてくれたファンに改めてお礼を言った。
そして、
誰かを好きって言う気持ちを身勝手な理由で悪いことに利用するのはとても悲しいことだからやめて欲しいとお願いし、
「僕は凪くんが好きなんだけど…」
と、いきなり爆弾発言をかました。
言った本人もビックリしていて、固まって、立ちトークだったので前に思わず前に置いてあったカウンターの下に隠れていた。
カウンターの下で顔を手で覆いながら目線で凪にごめんとおくってくるが、もう遅い。
このイベント、冒頭はインターネットで視聴出来るのだ。
笑って誤魔化す以外ない。
「もー、みんな真面目に話してたのに全部もってくんだもん!
何言ってんのー!」
「可愛いんだけど、言ったあとで照れないでもらっていい?なんかリアルだから。」
メンバー内で笑いのネタにして流す。
凪は「あとでお仕置き」と言って会場を湧かせた。
光輝はもう胃が痛いらしい。
インストにきてくれた人限定の握手会で「紅葉くん、頑張ってね!」「応援してます!」と言ってくれるファンの子たちに笑顔で応える紅葉。
音楽活動に対してではなく、凪への恋心への応援の意味だとは気付かずにファンとの握手を続けた。
その後、CDショップのスタッフとの食事会も楽しく終わり、なんとかキャンセルのでたホテルのツイン一室をおさえることが出来たメンバーは一先ず大阪へ向かった。
明日の宿泊先はまだスタッフの分のホテルしか確保出来ていない。
それもこの時期なのでかなり割高で、光輝は頭を悩ませていた。
夕方からまた咳の出ている紅葉は凪の運転する機材車の助手席でしょんぼりしていた。
インストでの失言を反省しているらしい。
「凪くんごめんなさい。
怒ってる?」
「ん? 別に怒ってないけど?」
「でも…なんか避けられてる気がして…。」
ケホケホと咳き込みながら紅葉は涙声だった。
「ごめん、そういうつもりじゃないんだけど…」
赤信号で停車すると、凪は助手席に身体を向けて一瞬だけ唇を合わせた。
「こんなことで嫌いになったりしないし…ちゃんと好きだよ。
紅葉、早く元気になって。」
「うん。」
まだ少し不安そうな紅葉は凪のジャケットの裾を掴みながら運転する彼の横顔を眺めていた。
ホテルにはみなと紅葉を泊まらせることにし、事情を説明して機材を部屋に置かせてもらう。
一段落すると凪は近くでたこ焼きを買ってきて紅葉に渡す。
「大阪名物。これ食べてゆっくり休んで。」
「ありがとう。
凪くんたちはどうするの?」
「あー、もう飲みに行っちゃおうかって話…。」
「え、ずるい!!」
奥からみなの声がして苦笑する。
「大人しくしてて、未成年。
紅葉のこと頼むね。なんかあったら連絡して?」
「了解ー。風邪ひかないようにね。」
「紅葉、あとで電話するから。」
「ん。」
凪はおやすみと紅葉のおでこにキスをして光輝と誠一の待つロビーへと向かった。
「紅葉、食べないの?
温かいうちに食べた方が美味しいよ?」
「うん。みなちゃんも食べる?」
「もう21時だから…じゃあ一つだけもらうね?食べたら薬飲もうね。」
「分かった。」
「元気出しな。
大丈夫。凪はあんなの気にしないし…、飲みに行くって言っても浮気はないよ。」
「うん…。
でもさ…、イヴ以来あんまり触ってくれないし…。やっぱ男は無理なのかな?
うー、女の子の身体が良かった…。」
「女は女で面倒だよ?
大丈夫。紅葉はその辺の女子より可愛いよ?
凪のこと信じて待ってな?」
「そうだよね。
焦ってもしょうがないよね…。
ごめんね、暗くなって…!
…食べよ!」
2人は部屋を譲ってくれた3人に感謝して眠りについた。
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