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第34話

12/29 1215 大阪インストアイベント当日 紅葉の体調も少し落ち着き、飲みに行った3人はそのまま夜を明かし、車で仮眠していたようだ。 ホテルにお願いして交代でシャワーと着替えを済ませる。 「凪くんお酒くさい…」 と紅葉は今朝キスしてくれなかったらしい。 凪はミネラルウォーターを煽り、気合いを入れ直してインストア会場へ向かった。 この日は軽く挨拶をして、握手会のみだったが、先日の影響からすごい人手だった。 凪は「紅葉くんを幸せにしてあげて下さい!」など声をかけられ、「そうだねー」と微笑む。 隣の紅葉は凪のどこがカッコいいのかをファンの子と熱弁している。 気負いしすぎず、和やかにイベントは終わった。 カナたちスタッフと合流して、明日の件を説明する。人数が少なくて迷惑をかけるけど、なんとか無事にLIVEが出来るように協力して欲しいと光輝が頭を下げると快く引き受けてくれた。 凪の後輩のローディーとその友人、そのまた友人も駆けつけてくれて、みんなでお好み焼きを食べた。 紅葉は目の前で焼かれるドロドロのタネに興味津々で、「これは食べられないと思うよ…?」とビビっていたが、出来上がりを食べさせるとすごく喜んでいた。 微笑ましい光景にみんなが和む。 結局メンバーのみなさんはどこに泊まるんですか?という後輩の問いに凪が答えた。 「俺ん家。ちょっと遠いけど、まぁ車だし、タダだし。」 そう。 すごい金額のホテルしか見付からず、光輝が震える手で予約を取ろうとしていたのを見て凪はストップをかけた。 凪の今の実家は京都にあって、なんと旅館をやっている。 そして県境なので大阪のLIVE会場からもそこまで遠くない。 本来、超多忙なこの時期にダメ元で聞いてみたところ、お風呂を改装中の離れでも良ければとOKをもらったのだ。 光輝は電話で凪の母に何度もお礼を言って、デパートで購入した菓子折りをもって凪の実家へと向かった。 到着すると立派な老舗旅館にメンバーは驚く。 「おっきいー! すごい!日本のホテルだっ!」 「え、凪ってここ継がなくていいの?」 誠一が遠慮がちに聞くが、凪は首を振った。 「弟が継ぐから。まぁ、義弟なんだけど…」 そう言って、久しぶりに訪れる家に入る。 ロビーでしばらく待つと母がパタパタと駆け寄ってきた。 「凪…、お帰りなさい。 でもあなた、ちょっと急過ぎるわよ。」 「悪い…助かる。 部屋どこ?」 「銀杏。女の子一緒って言ってたけど一部屋でいいのかしら? 一応襖で区切れるけど鍵は掛からないのよ?」 「緊急事態だし、そこは息子と仲間を信用してよ。 あ、うちの母親。…俺のバンドのメンバー。」 凪が紹介すると落ち着いた色合いの着物を纏った女性が頭を下げた。 「初めまして。息子がいつもお世話になっております。女将で凪の母の早苗です。」 光輝がみんなを紹介し、順番に挨拶をする。 凪の母はみんなイケメンね、とご機嫌であとで一緒に写真撮ってねとお願いしていた。 そして紅葉をみると「可愛い、キレイ、お人形さんみたい!」を繰り返し「凪くんママ?」と首を傾げながら呼ばれると興奮した様子だった。 「えっ…遺伝かな?(笑)」 紅葉への甘やかし具合にメンバーはこっそり呟いた。 部屋に案内され、念のため機材を運ぶ。 紅葉は和室に大喜びで早苗が抹茶とお茶菓子を出すと目を輝かせていた。 「改装中でごちゃごちゃしててごめんなさい。お風呂はお部屋のシャワーなら使えるけど、良かったら大浴場も使ってね。 評判の温泉なのよ。 凪、あなたは勝手にタトゥーなんか入れてるんだから時間外にしなさいよっ!」 「はいはい。」 「女将さんすみません、僕もタトゥーあるんですけど…温泉好きなので入ってもいいですか?」 誠一が微笑みながら聞くと早苗は「あら、そうなの?もちろんよ!貸し切りのお風呂もあるから夜勤のスタッフに声だけかけてくれる?ゆっくりしていってね。」とにこやかに対応する。 凪が自分との対応差に嘆くが、ここ1~2年はバンドが忙しくてほとんど実家に寄り付かなかったのでこの扱いにも我慢する。 早苗が退室して、光輝と誠一はPCで仕事を始めた。みなはシャワーを浴びてもう寝るらしい。 「温泉入っていい? みんなで行こ?」 紅葉に聞かれた凪はしばし考えるが、やはり他の男の目にこのキレイな身体を晒すのには抵抗があって、しばらく待つように言う。 ロビーにいた義弟を見付けて手短に挨拶をし、貸し切り風呂の鍵を借りる。 義父にも顔を見せて欲しいと言われて、宴会場の片付けをしていたところを呼び止める。 母親が再婚して3年。 まぁ、付き合いはそれより随分前からだが、既に家を出ていた凪はこの新しい義父、義弟と一緒に暮らしたことはない。 だからと言って別に仲は悪くないし…まぁ、いい大人なので適度な付き合いがちょうど良い距離感の家族なのだ。 義父とは養子縁組してないが、今では親父と呼んでいる。 「凪くん!おかえり!」 「忙しいとこ急に来てごめん。 いろいろありがとう。 何か手伝おうか?」 「いいよ、いいよ。もう終わるから…。 これからお風呂? ゆっくりしておいで。」 「…じゃあそうするけど…。」 「うんうん。 まだ起きてるよね? あとで部屋に差し入れ持って行くよ。」 断ったがこの人は持ってくるのだろう…。 本当に絵に書いたように穏やかで優しい義父は人の良い笑顔で風呂をすすめてくれた。

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